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2020.02
照明のイノベーター
タカキ ヒデトシ52
Interview
- Hidetoshi Takaki
- 住宅デザイン部
住宅照明は、これからどうなっていくと思いますか?
これからは、照明の世界もどんどんデジタル化が進んでいく。
明るさや色温度の調整などもすべて「 ヒデトシ!明るくして 」とか「 オッケー!ヒデトシ 」なぁんてことを“ 音声解読機能 ”をもった機械に話しかけると、調光システムだけでなく、家のしくみ全体を“ デジタル制御 ”するようになっていく。そうなると、用途や好みで細分化される一方で、複雑な仕組みがAIなどによって編集され、どんどん仕組みがシンプルになっていって多くの人に浸透していく。そこから、みんなが同じ「 思い込み 」や「 先入観 」や「 固定観念 」といった類型化された観念に染まってしまい「 ステレオタイプstereo type( 典型 )」というパターンに陥ってしまう。
すると世の中から “ 希少性 ”というものが否定され、多数が向かったところが「 正解 」にされていく。提案していく「 かたち 」がステレオタイプに隷属させられてしまう。照明の世界でもこのことは大問題なので「 本当にそれでいいの?本当にそれってキレイなの?家の価値は上がるの?」といったことを常に問わないとイケない。
ところで「 配灯計画 」と「 照明計画 」の違いってわかりますか?「 配灯計画 」は《 机上の論理 》 データをもとに、決められたコストに合わせてセオリー通りに、文字通り“ 配灯 ”していくこと。「 照明計画 」は《 実践的戦略 》 そこに住まう家族の状況はもちろんなんだけど、建築会社の施工ルールや設計者の意図( 狙い )や予算から“ 総合的に考えて ”つくりあげるもの。設計者の意図をくみながらインテリアを含めた“ 照明デザイン ”をすること。なので、私はいつもメンバーに言うんです「 “ 配灯 ”するんじゃない。しっかりデザインしよう 」って。
そもそも、なぜ照明が必要なのか。住宅の中でどうあるべきか。そういった原点に戻ってデザインすることが必要だと思う。似たようなものの間に共通に認められる性質や特徴の「 プロトタイプproto type( 類型 )」でもない。歴史や文化あるいは一般常識といった「 アーキタイプarche type( 原型 )」にまで立ち返るべきなんです。
流行や経済にながされてしまうと、どこのメーカーも、どんな設計士もデザイナーも、みんな同じものしかつくれなくなってしまう。もう既にそういう時代になりつつあるので、私たちは“ 差別化 ”したサービスを提供し続けないといけないんです。
そのために“ 高木チーム ”の皆さんは、どう取り組まれているのでしょう?
照明プランをするときに注力するのは「 説得力 」のある提案シートを作成することです。手書きのスケッチやパースや詳細図をつけて視覚的にわかりやすいものにする。理由や根拠を言語化、数値化して理解していただきやすいものにする。単純に商品スペックだけを並べたものだと何も伝わらないし「 好きか嫌いか 」「 高いか安いか 」「 明るいか暗いか 」 といった「 二分法的 」でしかない判断を下されてしまいますからね。
私たちにオーダーいただいたということは、照明のプロのアイデアを求められている。ホテルや施設物件での経験を住宅にも応用し、なにより実際の夜の現場に足を運んで、常に現場を検証して次の提案に活かしています。
そこで設計士さんにお願いなのですが、図面には必ず “ 通り芯 ”を入れていただきたい。日本全国の照明プランを見ると、平面図の図柄だけで判断してしまい、サイズ感や畳数の感覚が頭の中から“ ぶっ飛んでる ”ことが結構ある。とくに絶望的なのがキッチン。カップボードと冷蔵庫を置く場所を除くと一般的には“4畳 ”しかない、食卓テーブルを入れても“6畳 ”しかないのに、とんでもない灯数で埋め尽くされている。これこそ、昭和の時代から引き継がれてきた、照明メーカーが推奨する配灯計画《 机上の論理 》すなわち「 ステレオタイプ( 典型 )」の弊害です。もっと畳数を考えないとイケない。
在来工法:910mmの通り芯の表記がない場合
サイズ感や畳数が分かりにくい。
家具配置に惑わされ、空間の広さに対して過剰な灯数の照明計画になりがち。
在来工法:910mmの通り芯の表記がある場合
空間の畳数を瞬時に把握できる。
空間の広さに対して適切な灯数での照明計画をしやすい。
あと「 滞在時間 」も頭の中から抜けている“ ぶっ飛んでる ”。圧倒的な日常の生活の中で、その玄関から何秒でリビングにたどり着くのかがわかってない。何秒で階段を上り下りするのかがわかってない。二階のトイレなんか夜に何回使うのかも考えていない。予算というものがある限り“ 力 ”を入れる場所が限られてくるんだけど、均等にあるいは余計なところに“ 力 ”をかけてしまうもんだから、滞在時間の長いリビングにたいして余力がなくなっている。外構にお金が回らなくなってしまう。意外と当たり前のことが考えられていないものなんです。
最後に、高木さんのとっておきの手法をご紹介ください。
下の写真は、2019年のグッドデザイン賞を受賞されたO様邸です。庭の景色をも取り込んだ、設計力を活かした照明デザインを実現できました。審査員の方の評価コメントで「 夜は照明デザインが印象的である 」と書いていただいて、素直に喜びを感じています。
事例詳細はこちら
皆さんに知っていただきたいのですが、「 予算がない = ダウンライト 」という考え方はもうやめましょうということ。予算の中で、いかに良い照明デザインを実現するかは“ 発想の転換 ”がカギになると思いますよ。一例として、私がこのところよく使っている器具をご紹介しますね。
スタンド DST-40644
キレイな壁に、こんな印象的なスタンドがあるって素敵じゃないですか?
ペンダント DPN-40640
机上を照らせないペンダントっていうのが面白い。間接照明のための建築造作を必要とせず印象的な空間がつくりだせる。これにグレアレスユニバーサルダウンライトを組み合わせて机上面の明るさを確保します。
コンパクトライン DSY-5236
家具照明としてのイメージが強いですが、私は“ 底目地 ”という施工を応用して天井面に設置し、ベース照明としても活用します。
私たちに必要なのは“ 自由 ”な発想。まずは、今ある常識を疑ってください。平成のまま、いや昭和のまま引き継がれているプラン( 思考 )でよいのか、問いかけていただきたいと思います。高木チームのメンバーは、専門書を出したり、全国で精力的にセミナーを開催して最新のノウハウを発信し続けていますので、ぜひ参加していただいて、よりよいプランづくりに役立ててください。
「 原型 」arche type からの思考に立ち返って自由に発想し、新しいものをどんどん生み出して行きましょう。それがイノベーションの第一歩になると信じています。
DAIKO 住宅デザイン部 高木チーム