Pro's way

住宅照明のヒミツ

34

2023.04

花井 架津彦

Interview

黒の可能性

Kazuhiko Hanai
住宅デザイン部 大阪オフィス

照明計画のコンセプトは【 黒 】でいきましょう!
『 光 』と対義する『 影 』をデザインしましょう!
『 闇 』のなかにある『 光 』を丁寧につくっていきましょう!

明るさを否定するような言葉が、打合せで飛び交うなか、
《 TSUKIMI TERRACE ( 月見テラス )》の照明計画はスタートしました。

分譲地のモデルハウスとして建てられたこの建物は、『 まちなかのリゾート 』をコンセプトとし、
大空間のLDKと中庭を組み合わせて「 内 」と「 外 」を融合させ、
プライバシーを確保しながら、いつでも外部を感じられる贅沢な空間です。

設計者と打合せをしていくなかで、
インテリアや建築において【 黒 ・灰色 ( グレー )】がキーワードとして何度も登場。
そこから照明計画の考えを【 黒という色が持つ可能性を、光で引き立てる 】とし、
これが皆の意思統一をするコンセプトになりました。

【 黒 】 の「 後退 」と「 高級 」

まず照明計画で【 黒 】と聞くと、暗い = ネガティブ( 否定的 )な印象を思い浮かべますよね。
色の中でも、黒 は明度がもっとも低く、存在感をおさえる「 後退色 」になります。
光との相性を考えても、白色は効率よく反射して、明るさを届ける「 反射板 」となるのに対し、
黒色は光を吸収し、反射を抑え、「 明るさを失わせる効果 」があります。

白色の内装材の反射率が約80%に対して、黒色の内装材の反射率はたった5%!
16倍も光の反射する量が変わります。インテリアと照明はとても密接な関係で、
空間の色次第で、得られる明るさは大きく変化します。

反射率 … ある物体の表面に照射された光において、
入射量に対する反射量の割合を数値化したもの

明るさが「 善 」、 暗さが「 悪 」となる、
二元論の住宅照明の場合、
大事な明るさ感が失われる黒色は、照明との相性が悪く、
暗さを助長し不安を抱かせるイメージがあります。

一方で【 黒 】を前向きに考えると、
色がもつイメージとして「 重厚感・威厳・高級感 」が
あげられます。
その他にも、色を組み合わせた時に、
黒が後退して他の色を鮮やかに見せる
「 引き立て役 」の効果もあります。

それではここからは【 黒 】をポジティブ( 前向き )に
捉えた照明計画をご紹介します。

黒い背景が花の色を鮮やかに引き立てる

【 黒い影 】 が光を引き立てる

『 影 』を色で表現すると、【 黒 】に見立てることができます。
この『 影 』という言葉を聞くと住宅照明では、光が自分の手にさえぎられて、
手元が暗くなる「 手暗がり 」を想像しますよね。

作業に支障をきたす「手暗がり」は不快な影

このような不快な影は出してはいけませんが、
照明計画次第で、空間を演出し見せたいものを明るく引き立てる『 肯定的な影 』も存在します。
写真はスポットライトで観葉植物を照らし、『 影 』を壁面に投影しています。
白と黒の濃淡が、水墨画のような光の絵画が完成。
『 影 』をコントロールすることで、対義する『 光 』が対象物をより引き立てるのです。
この【 黒い影 】を味方につけることも照明計画において重要です。

スポットライトで、壁面に 「 葉の影 」 を投影させている

LZS-93419XB

LZA-93164LSM

グレアレスダウンライトで
座面の繊細な線の影を地面に投影

DDL-4914YBG

※上記スポットにパイロットランプ付のスイッチを使用する際は、4灯以上でご使用ください。

【 黒 】の「 後退 」と「 同化 」

LDKと軒の天井材はレッドシダー( 米杉 )で統一し、内と外の境界を曖昧にしています。
美しい木材を照明設備で穴だらけにしたくないという思いから
1本の黒い線の《 照明ボックス 》を提案しました。
室内天井の照明器具は、すべてこの照明ボックスに格納。
レッドシダーに照明器具は付いていないので、設備機器で木材を汚したり、
天井の見え方を台無しにすることはありません。

この照明ボックスは、キッチンのカップボードやシンク、窓枠と同色の【 黒 】のため、
インテリア・建材・設備( 照明 )が空間の中で「 同化 」します。
今回は、「 後退 」と「 同化 」を用いて照明器具の存在を抑えました。
また、照明ボックスの位置はやみくもに決めるのではなく、
窓際から3600mmの位置に取付けています。
これは天井材のレッドシダーを長く見せ、
最大長尺3600mmを有効活用するための設定です。

TSUKIMI TERRACE

設計:
積水ハウス大阪北支店 野本 有吾 蓑毛 あゆみ
撮影:
森本 豊
照明計画:
花井 架津彦
特注器具:
佐竹 裕義 ( 特注製作部 )
営業担当:
田端 あゆみ ( 関西ハウジング営業所 )
  • 昼間の黒色のサッシ枠

  • 夜は黒色のサッシ枠が外部の闇と 「 同化 」 し
    枠の存在が消える

板貼り天井とレンジフードと間接照明の関係

キッチンには、地あかりを確保するためにコーニス照明を提案。
設計者とも密に打合せを行い、当初天井まで来ていたレンジフードを下げて頂いたことで、
コーニス照明の光が途切れることなく、壁全体を照らすことができました。
器具の納まりを見ると、板の端部には見切り材を付けず、切りっぱなしの小口を、
やすりがけで整えられています。
見切り材の凹凸がないので、間接照明の開口部も空間と「 同化 」できています。

大きな壁面をコーニス照明で照らし明るさを確保。
シングルライン( 温調 )を使用し、明るさをおさえた、
低色温度の空間をつくりだしている。

【 黒い線 】の特注ペンダント

【 黒 】の「 後退 」と「 同化 」をより洗練されたものにするため、
ダイニングのペンダントを特注器具で製作しました。

器具形状は長さL=1550のシンプルな直線形状。
天井の照明ボックスの黒く長い線と、家具に用いられた曲線を取り入れたデザインとなりました。
仕上げの塗装も、キッチンや家具に合わせて、黒に近いダークグレーを選定。
金属特有のテカリと艶をおさえる為に粉体塗装を施し、
キッチンシンクのマット( つや消し )な質感と揃えています。

細部にもこだわりがあり、側面( 断面方向 )の鋼板を15mm奥に引っ込めています。
これにより、1.0mmの薄い鋼板の曲線が浮かび上がり、「 薄さによる繊細さ 」と、
「 奥行の立体感 」をつくりだしています。
また、インテリアとのデザインの統一と、安全面に配慮し、
長手方向の端部の処理はアール形状で切り落とし、鋭利な角を排しました。

夜は空一面が漆黒の『 闇 』と化し、昼に認識できた外の景色を消し去ります。
闇となった庭に光を灯す。外壁の高所に設置したスポットライトは、
月あかりと同じ方向で、空から地面に光を落とし、
樹木の葉やグランドカバーを、闇の中で美しく浮かび上がらせます。

内と外が融合した中庭とLDK

昼間は太陽光がすべてを照らし出すため、隣の家の外観など、様々な外部の景色が自然と取り込まれる

今回の庭は、多肉植物を中心に乾燥地帯の自然を再現した庭《 ドライガーデン 》
グランドカバーには、肉厚の葉が密集しています。
そこに無理やりスパイクスポットを差し込むと、下から上の光のため、
中庭の外壁に予期せぬ不自然な影が発生してしまいます。
肉厚で常緑の葉が多いドライガーデンでは、外壁に設置したスポットライトで
光を上から下へ落とし、グランドカバーをしっかり照らすことが美しい庭の演出となります。

DOL-5348 YBG

DP-40779 ( フード )

正面からの拡散光で照らされた能面。

下からの光で照らされた能面。
影の作用で、見る人に不安や恐怖を
与える。

LDKから窓越しに夜の庭を眺める。
この時に大事なのが室内に「 暗さ 」をつくれるか。
室内が庭よりも明るいと昼間は透明だった大きな窓ガラスは、鏡に変わり、
室内の景色を映り込ませ、庭の景色を遮断します。
そこで、室内を調光して明るさを落とす。鏡だった窓は透明へと変わり、
じょじょに映り込みは消えていく。
樹木を照射したスポットライトも調光して、室内と庭の明るさを整えた時、
「 内 」と「 外 」が「 同化 」した美しい景色が完成します。

内と外の明るさを調整し、窓ガラスを透明にした景色

キッチンのコーニス間接を点灯すると
窓ガラスは鏡となり、映り込みが発生

今回の《 TSUKIMI TERRACE 》の照明計画の考えはいかがでしたか?
『 色 』と『 光 』の関係を自分なりに整理して、住宅の明るさにおいては
否定的な位置付けの【 黒 】を、「 引き立て役 」と考え肯定的に捉えることで
クライアント( 設計者 )の意図を夜の景色に落とし込むことができました。

照明デザインの立場から、建築・インテリア・外構の在り方を提示していくと、
建築設計者も「 想像 」していなかった景色を「 創造 」する事ができます。

これからも日々の仕事のなかで出会う、
設計者・インテリアコーディネーターさん・
外構・造園デザイナーさんと
互いに学びあう事で住空間の質を高めいきたいと考えています。
“ いい家は、いい照明が証明する ”
これからも、住宅デザイン部をよろしくお願いします!!