Pro's way

住宅照明のヒミツ

27

2021.11

タカキ ヒデトシ53

Interview

夜の帳が降りるころ、光の帳が降りる家。 埼玉県 A邸 タカキ ヒデトシ53
Hidetoshi Takaki
住宅デザイン部

住宅の照明で “ 何かを提案する ” となると 《 間接照明 》 ばかりですが、
僕が 「 絶対に提案しない 」 間接照明が二つある。

一つは、出隅での壁面を照らすコーニス照明。
一つは、階段がある場合の天井面を照らすコーブ照明。

いずれも “ ある条件 ” から見ると 「 ランプが丸見え 」 になるからです。

ランプが見えるから 『 幕板 』 で隠したりしてまで、間接照明を施す人がいるのですが、器具本来の光が出ないうえに、ムリな施工につながっていく可能性が高くなる。 だから、図面上で指示をされていても “ 断固反対 ” の意思表示をして、他の提案に変えていきます。

どんなときに “ 断固反対 ” なのかは、図面によってもさまざまなので、ここで事細かに触れることはできませんが、今回の現場は、僕が 「 絶対に提案しない 」 階段がある場合の天井面を照らすコーブ照明を、壁面を照らすコーニス照明に変更していった 『 埼玉県 A邸 』 の紹介です。

『 A邸 』 の設計は、前回の発信 《 禅問答の照明計画 》 に登場した、ポーラスターデザイン一級建築士事務所の
「 長澤徹 」 くん。 二年連続でグッドデザイン賞を受賞したので、二回連続でこの Pro’s Way に出演してもらうことを勝手に決めました。

『 A邸 』 の施工は、埼玉県の 「 芦葉工藝舎 」 さんで、実は長澤くんからの紹介。 手始めに、クラウドコンピューティングを使用したWeb会議のサービスを利用して、人生で初めての 「 テレビ会議 」 たる打ち合わせからスタート。

登場人物は、ポーラスターデザインの 「 長澤くん 」 と、芦葉工藝舎の 「 芦葉武尊 ( たける ) 」 社長。 大光電機からは紅一点、埼玉営業所の 「 石田ミーオ 」 と、この打ち合わせでの最年長、 「 タカキヒデトシ53 」 を合わせた
“ 紅と紺と ” の四名です。

  • 前回の発信 《 禅問答の照明計画 》

  • コンパクトラインを使用し 「 繊月 」 のような光をつくりだした。

階段がある場合の天井面を照らすコーブ照明。

まず展開図をみてもらいましょう。 LDKに天井面を照らすコーブ照明が提案されています。   
( これはイイ・・・。  )
階段ホールの展開図に目を移すと、そこにも天井面を照らすコーブ照明が “ 延長 ” されています。 
( これはマズイ ・・・。 )

『 この間接照明はダメ! 』

『 LDKはよしとして階段はダメ! 』

『 階段からランプが丸見えだからダメ! 』

『 吹抜けへ汚い光が出ていくからダメ! 』

僕は図面を見た瞬間に “ ダメ出し ” ばかりを連呼した。

LDK展開図

階段ホール展開図

なぜ 「 ダメ 」 なのかメーターモジュールで説明します。

「 天井高さ 」 が 2500㎜で、15段で二階に上がる階段、一段の 「 蹴上の高さ 」 が 200㎜の場合とします。 すなわち 「 天高 2500 」 「 階高 3000 」 という空間。
そこへ成人男性の平均身長 1714㎜が現れます。 目線の高さは 「 身長 × 0.93 」 なので、約 1600㎜。

「 天高 2500 」 に 《 視座 》 がそろうのは、「 2500 - 1600 = 900 」 なので、800アップの 4段目と、1000アップの 5段目を“ 跨 ( また ) ぐ瞬間 ” にあります。
この 《 視座 》 より下に位置する場所での 「 天井を照らす間接照明 」 は、基本的には “ ランプ丸見え ” となります。

天井面と視座がそろうと、ランプが丸見えになる。

さらに 『 気をつけなくてはいけないこと 』 もある。 吹抜け位置より 「 ランプが見える 」 ということは “ 裏を返せば ” 吹抜けに 「 光が抜ける 」 ということです。 僕は、階段が設置されていれば、必ず 「 ランプが丸見え 」 となるので、このような 『 天井を照らす間接照明 』 は行いません。

ランプが見えるということは、吹抜けへも光が抜けている。

診察から診断。 そして診断の結果が手術。

そこで長澤くんは 「 そっかぁ、そうだよなぁ、ランプ丸見えはマズイよなぁ 」 と、いつも通りにサラサラ~っと反省し 「 何か “ いい手 ” はありませんかぁ 」 と聞いてくる。
“ いい手 ” は、無いこともないのだが、いまの考え方のままでは “ いい手 ” には、ならない。 まず図面を見て 『 診察 』 し、天井面を照らすコーブ照明はダメだと 『 診断 』 したのだから、健康な状態に戻すには 『 手術 』 しかない。

そこで、大工たちの親方である 「 芦葉社長 」 に 《 幕板 》 の施工が可能かどうかを聞いてみると、うちの大工たちは 「 難しいことにチャレンジする 」 やつらばかりなので 「 だいじょうぶですよ 」 と、いう答えが返ってきた。

“ お~!なんとも素晴らしい ”

この一言に勇気づけられ、一部を 《 幕板 》 の施工にすることで、天井面を照らすコーブ照明から、壁面を照らすコーニス照明へと変更。 大工さんたちの手による、文字通り 「 大手術 」 がおこなわれたことにより “ 健康住宅 ” へと蘇生することができたのであります。

日本の意匠は 『 幕 』 からはじまっている。

もともと 「 幕 ( まく ) 」 とは、上から覆うもののことを指していて、それを横に張ったものが 「 幔 ( まん ) 」 になります。 この 「 幕 」 と 「 幔 」 が一対になった意匠が 「 幔幕 ( まんまく ) 」 と言われるもので、それを “ だんだら ” の色違いにしたものが 「 班幕 ( はんまく ) 」 です。 班幕は、私たちが寺社でよく見かける 「 五色の幕 」 のこと。 歌舞伎などで見られる色違いの幕を 「 定式幕 」 と呼びますが、起源はここにあります。 そして、この 「 幕 」 のサイズを小さくして室内に持ち込むと「 帳 ( とばり ) 」などへ名称が変わっていき、そこから 「 几帳 ( きちょう ) 」 や 「 引帷 ( ひきとばり ) 」 や 「 御簾 ( みす ) 」 など ― 自分で調べてください! ― に分かれていきます。
このように日本の意匠は 「 幕 」 が多様に変化してうまれてきたものと言えるのです。
なので僕は、この家に 「 帳 ( とばり ) 」 を下ろした。 と、いうことになる。

A邸(埼玉県 幸手市)

施 工 :  芦葉工藝社 芦葉武尊
https://www.ashiba.jp/
設 計 :  ポーラスターデザイン一級建築士事務所 長澤徹
https://www.polarstardesign.com
撮 影 :  藤本一貴
照明計画 :  タカキヒデトシ53 WITH 石田未央

際を極める。

『 コーニス照明 』 は、施工の 《 方法 》 である、“ 底目地 ” の
《 手段 》 を応用したものです。“ 底目地 ” は本来、とても細い溝ですが、それを、『 大きな溝にした 』と、捉えてもらって構いません。

『 施工寸法 』 は選択した器具によって異なるため、その都度、確認が必要。
『 開口寸法 』 は光の伸びを保証するものではない。

施工寸法は 「 選択した器具 」 によって異なるため、その都度、確認をしてください。 ただしここでは、器具から壁面までの 《 開口寸法 》 について説明をします。 照明器具メーカーでは、器具の施工や熱的な問題を解決するために 『 最小施工寸法 』 を記載しています。 器具が “ 収まっている部分 ” の開口は、その寸法に準じてもらわなくてはイケませんが、光が「 出ていく部分 」 から、光が 「 当たる部分 」 までの開口は、それに準じると “ 光は伸びません!” だって 『 施工や熱的な問題 』 を解決するための寸法であって、光の伸びを保証する寸法ではないからです。

光の出方は 『 三角形の相似 』 状態で広がっていく。

光の出方の 《 原理 》 は、三角形の 『 相似 』 状態です。 光が 「 出ていく部分 」 から、光が 「 当たる部分 」 までの開口が “ 広く ” なればなるほど、光の出る範囲は広がっていきます。建築的に 『 コーニス照明 』 の溝は “ スリット ” や “ ミニマム ” といった言葉が連想させるように、細い溝を求められる方が多いのですが、照明的には 『 光の効果 』 が、あまり得られないのが現実です。なので僕は、最低でも 『 200㎜以上の開口寸法 』 を必要としています。

  • ダウンライトはリビングとシンク上にだけ設置。

  • 調光で明るさを落とすと、外の景色とつながっていく。

『 200㎜を以って上 』 の開口寸法を施したのが、上の現場写真です。 壁面に幅広く光が当たり 《 包囲光 》 となって、LDK全体を包み込んでくれている。 人の 《 視座 》 に対しても、ほぼ直角に “ 明るさの面 ” が生まれていることが、確認できると思います。

  • ・ こうなると、不必要なダウンライトが見えてくる。
  • ・ 本当にダウンライトが必要な場所が見えてくる。

「 一体化したシンクとテーブル 」 の上と 「 リビング 」 にしか、ダウンライトは存在しない。

《 お互いの目が審判 》

今回の現場は 『 間接照明 』 という 《 方法 》 のなか
で 、「 天井面を照らす 」 のか 「 壁面を照らす 」 のかという “ 手段 ” の選択の仕方を説明しました。 つぎに 『 間接照明 』 を採用したことによって 「 足し算 」 されていく 『 ダウンライト 』 を 「 引き算 」 に編集していることも伝えています。

『 いい住宅をつくりたい 』 というのなら、そこには職人の数、その住宅を検証する場面の多さ、その住宅をいきいきとさせる意匠のセンス。

そうしたもろもろの、共通目的や関心をもつ人が、自発的につくっていく 『 アソシエーション 』 association “ 連想 ” が一緒に走っていくべきです。

そのために私たちは、これらの照明が “ 照明として成立 ” している 《 夜の現場 》 に、関係者で集まり 『 見て 』
学びあう “ 訓練 ” をしています。 さらにはそれを継続しています。同じ景色を共有していなければ “ 連想 ” は一緒に走っていってはくれないからです。

僕が間接照明を提案してきた理由は “ 明るさ ” の前に、
まず “ 建築意匠 ” にある。

間接照明は 「 空間表現の世界 」 を広げていくことができるようになります。 そしてこのとき重視されるのが 『 キワ ( 際 ) 』 なのです。 ランプを隠す 「 幕板 」 の高さや形状の 『 キワ 』 や、建築との隙間の 『 キワ 』 におもむくことが 《 極める 》 ということになっていく。 そこに挑めるキワがあるということは、そこに相接する “ 光 ” が端しうることを意味することになります。 これが 『 間際 ( まぎわ ) 』 ということであり “ 光の出巾 ” によって明るさが決定する。 建築の意匠が決定する。

建築と光の 『 間際 ( まぎわ ) 』 をつなぐ “ 編集 ” に答えることが間接照明なのであって、決して、明るいか暗いかの判断だけではありません。 ご紹介してきた 『 A邸 』 では、僕がどのような “ 想い ” で間接照明を提案しているのかが、少なからず伝わると “ 思い ” ます。
ぜひみなさんも 『 キワを極めて 』 空間表現の世界を広げていってください!

夜の帳が降りるころ、光の帳が降りる家。 埼玉県 A邸 タカキ ヒデトシ53

《 A邸 》 は、納入事例集にも掲載しています。
その他の現場も “ 見どころ満載 ” ですので、ぜひご覧ください。
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ご精読ありがとうございました。