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2025.12
タカキ ヒデトシ57
Interview
- Hidetoshi Takaki
- 住宅デザイン部
今から 20 年以上も前の 2001( 平成 13 )年のことですが、
岡山県の宇野港からフェリーに乗船して、瀬戸内海に浮かぶ【 直島 】へ上陸したときに、
『 ダイコーの高木さんですか? 』と、見ず知らずの若い兄ちゃんに声をかけられました。
『 ○○ 会社の岡山支店の設計です 』
と、自己紹介され、これがキッカケとなって、
岡山県の物件を、次から次へと、手当たり次第に、
“ 片っ端から ” 手掛けることになってしまいます。
その若い兄ちゃんというのは「 尾山宏司 」くん。
メーターモジュールの住宅会社さんでした。

直島は岡山県にむちゃくちゃ近いのに、なんと香川県
でも初めは、お互いに素性を知らないので『 まずはセミナーを聴いてもらいましょうか 』
と、いうことで同意にいたり、それからさまざまな研修を開催していくことになります。
今回は、そのセミナー中の【 比率について 】の話を進めていきましょう。
今から『 1 : 1.4 』 『 1 : 1.5 』 『 1 : 1.6 』 三つの《 長方形の比率 》をあげます。
この三つの比率を “ 住宅空間に置き換える ” と、どうなると思いますか?
《 正方形が重要な鍵 》となりますので、ちょいと説明していきます。
『 1 : 1.4 白銀比( 5 : 7 ) 』
タテ と ヨコ の辺の長さが、およそ [ 1 : 1.414 ( 5 : 7 ) ]
の比率で構成されていて、定形の《 コピー用紙 》などが代表例です。
この [ 1.414 ] という値が、どこから来ているのか作図をしてみます。

① 正方形を描きます。
比率は [ 1 : 1 ]

② 左下の頂点から
正方形の対角線をとります。

③ 左下の頂点を中心にした円弧を描く。
このとき、正方形の対角線が円弧の
半径となります。

④ 正方形の底辺の延長線と、
円弧の交点を結ぶ。

⑤ 交点をもとに長方形を描くと、
【 1 : 1.4 白銀比長方形 】 の完成です。

⑥ このとき、もとの正方形の対角線 ㋐ と、
白銀比長方形の長辺 ㋑ は、同じ円弧の
半径なので、長さは等しくなります。

⑦ 正方形の 1 / 2 となる直角二等辺三角形
の比率は、三平方( ピタゴラス )の定理で
求めると、対角線 ㋐ は √2( 1.414 )

【 三平方の定理 】とは?

2 辺の長さを a. b
斜辺の長さを c とする
直角三角形において
c² = a² + b²
が成り立つという定理。

c² = a² + b²
c² = 1² + 1²
c² = 2
c = √2 ( 1.4142 ・・・ )
⑧ なので ㋑ の長辺も √2( 1.414 )となります。
白銀比の [ 1.414 ] というのは、
《 正方形の 1 辺と、その対角線の比 》
から導かれているのです。

⑨ この形が、コピー用紙やハガキなどに
代表される【 1 : 1.4 白銀比長方形 】
またの名を √2 長方形 とも呼びます。

『 1 : 1.6 黄金比( 5 : 8 ) 』
タテ と ヨコ の辺の長さが、およそ [ 1 : 1.618 ( 5 : 8 ) ]
の比率で構成されていて、西洋の概念で “ とても有名な比率 ” です。
この [ 1.618 ] という値が、どこから来ているのか作図をしてみます。

① 正方形を描きます。
比率は [ 1 : 1 ]

② 正方形の対角線をとって
1 / 2 長方形をつくります。

③ 右側の 1 / 2 長方形の左下の頂点を
中心にした円弧を描く。
このとき 1 / 2 長方形の対角線が
円弧の半径となります。

④ 正方形の底辺の延長線と、
円弧の交点を結ぶ。

⑤ 交点をもとに長方形を描くと、
【 1 : 1.6 黄金比長方形 】 の完成です。

⑥ このとき 1 / 2 長方形の対角線 ㋐ と、
延長した長辺 ㋑ は、同じ円弧の
半径なので、長さは等しくなります。

⑦ 正方形の 1/ 2 となる直角三角形の比率は、
底辺を 1 とすると高さが 2
三平方( ピタゴラス )の定理で求めると、
対角線 ㋐ は √5( 2.236 )
※ 1 : 2 : √3 ではないので要注意!

【 1 : 2 : √3】とは?

正三角形の 1 / 2 三角形の比率。
30°60°の角度をもちます。
底辺 a が1 斜辺 c が2
高さの b が分からないので
三平方の定理で求めます。

a² + b² = c²
1² + b² = 2²
b² = 2² - 1²
b² = 3 b = √3 ( 1.732 ・・・ )

⑧ なので ㋑ の長辺も √5( 2.236 )となります。
三平方の定理をちゃんと理解していなくて
1 : 2 : √3 だけを覚えているだけだと、
必ずやらかしてしまうぞ!



『 1 : 1.5 長方形( 4 : 6 ) 』
タテ と ヨコ の辺の長さが、ピッタリ [ 1 : 1.5( 4 : 6 ) ]
の比率で構成されていて、在来工法では “ とても重要な比率 ” です。
この [ 1.5 ] という値が、どこから来ているのか作図をしてみます。
① 正方形を描きます。
比率は [ 1 : 1 ]

② もう一つ正方形をヨコに並べます。
比率は [ 1 : 2 ] になります。

③ 右側の正方形の対角線をとって
1 / 2 長方形をつくります。

④ すると右側の正方形が 0.5 と 0.5 の
二分割になる。

⑤ 分割された左側の 0.5 長方形と、
もとの正方形を足すと、
【 1 : 1.5 長方形 】 の完成です。

ここに『 1 : 1.4 』『 1 : 1.5 』『 1 : 1.6 』の《 長方形の比率 》が出そろいました。
それぞれに天井高さをあてはめていきます。
『 1 : 1.5 』に《 在来工法 》の天井髙さ 2400 をあてはめると間口は 3600

『 1 : 1.4 』に《 メーターモジュール 》の天井髙さ 2500 をあてはめると間口は 3500

『 1 : 1.6 』に《 メーターモジュール 》の天井髙さ 2500 をあてはめると間口は 4000

メーターモジュールの『 1 : 1.4 』は【 天高 2500 / 間口 3500 】でピタッと白銀比 。
メーターモジュールの『 1 : 1.6 』は【 天高 2500 / 間口 4000 】でピタッと黄金比 。
在来工法の基本モジュール《 天高 2400 / 間口 3600 》はピタッと『 1 : 1.5 』で、
“ 白銀比と黄金比のどちらも兼ねそなえた美しい比率だ ” ということです。
在来工法の《 天高 2400 / 間口 3600 》を基本としたとき、メーターモジュールでは、
『 1 : 1.4 白銀比 』だと、在来工法より少し狭くなる。
『 1 : 1.6 黄金比 』だと、在来工法より少し広くなる。
平面図でも同じです。
下図は在来工法での 6 畳 [ 2730 × 3640 ] を基に、
メーターモジュールでの面積の違いを比較しています。
メーターモジュールでは [ 27 → 25 / 30 ] [ 36 → 35 / 40 ] と変化して、
少しややこしいのですが、ここを押さえておかなくてはなりません。
在来工法より “ 広いか / 狭いか ” の基準で、
明るさの判断も行いやすくなるからです。
このような研修を開催したあと、尾山くんが、
どのような設計を企んでいったのか今から見ていきます。

中庭をリビングに取り込んだ、
メーターモジュールの家です。
ここに美しい比率が隠されています。

天井高さ2500 に対して 間口 4000 という比率は、
[ 1 : 1.6 ] の関係。
人が “ 美しい ” という感情を抱く『 黄金比 』に、
ピタッと当てはまります。

中庭の奥にある壁も、窓とそろえた黄金比で、
キャンパスに見立てています。

そして、天井ラインとそろえられた中庭の壁が、
遠近法となってリビングの景色に取り込まれる。
尾山くんは伝統芸能の “ 活け花 ” のような庭を、
日々目指しています。
さらに尾山くんが、
メーターモジュールを象徴する壁面をつくり出したので見ていきます。


カメラのフレームに入りきらなかったので展開図を参照してください。


キッチンへの入り口を境に白銀比長方形と 1 : 2 長方形とに分かれます。


両側の通路を除くと、白銀比を構成していた正方形と黄金比に分かれます。


正方形には白銀比が縦に二つ並んだ入り口と、黄金比には黄金比の開口が組み込まれる。
比率をあやつるようになった尾山くんは独立をはたします。
そして電話がかかってきました。
「 建売をやるんですが手伝ってもらえませんかぁ 」
僕はこう答えます。
「 建売ならポルノグラフティな現場にしよう! 」
ポルノグラフティとは、つくられた作品を見て、
『 我がものにしたい 』という欲望をそそる作品のことです。
「 安易にダウンライトを使用しない物件にしよう 」
と、いうことで、建築主体の計画を行いましたので、
最後に【 配灯計画 】とともに見てください。
コーブ照明の家


atelier torch 一級建築士事務所
尾山 宏司


コーニス照明の家


atelier torch 一級建築士事務所
尾山 宏司


Wコーニス照明の家


atelier torch 一級建築士事務所
尾山 宏司



ちょうどここまでの原稿を作成し終わったときに、
タイミングよく尾山くんから電話がかかってきました。
「 古民家再生の店舗やるんですが手伝ってもらえませんかぁ 」
僕はこう答えます。
「 古民家なら現場に行かんとわからへんのとちゃうん 」
今までさんざんお世話になってきたので、僕は断る術を知りません。
二つ返事で快く承諾し、岡山の現場に入ることにしました。
余談ですが、僕は 1968 年の【 サル年 】に生まれました。
「 高木さん “ きびだんご ” あげるから仕事を手伝ってよ 」
と、
僕は、尾山くんに、きびだんごひとつで、
岡山県側の港から【 直島 】に上陸したときから、
“ 手なずけられていた ” ような気がしてなりません …。
