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2023.11
土井 さやか
Interview
- Sayaka Doi
- 住宅デザイン部 大阪オフィス
ダウンライトをやめよう。
照明計画を考えるときに、まず何から始めますか?
「 ダウンライトを何灯にするか、どう並べるのか 」
と、いう思考から、始めてしまってはいませんか?
私はまず『 ダウンライト以外 』で考え始めます。
ダウンライトは数ある照明手法の中の1つでしかありません。
ですので、たくさんの照明手法の引き出しを持っていれば、
ダウンライトに行き着くことの方が、むしろ少ないのです。
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実は私も、照明の勉強会などの機会をいただいた際に、
「 ダウンライトの灯数や配置をどう計画すればいいか 」
と、いう内容でお話をさせていただくことがあります。
ですが、そもそもダウンライトで良いのでしょうか?
ダウンライトを増やしたり、減らしたり、整えたり …
それだけで空間表現してしまって良いのでしょうか?
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「 直線的な四角で構成された空間に、丸という図形を幾何学的にデザインする力がなければ、
ダウンライトで埋め尽くされた空間は、正月におもしろさを楽しむ福笑いになりかねない 」
この言葉は、
私が住宅デザインチームでプランをしていたときに、いきなり、
師匠のタカキヒデトシ55から浴びせられた、痛恨の一撃です。
- その配置は平面図には合ってるし
- ダウンライトの間隔も整えてるし
- 明るさに対する台数も自信がある
- 何なら、予算内にもおさまってる
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なので『 なにが福笑いなのか 』なんてサッパリ分かりませんでした。
けれど『 現場に入って見ると 』なんてガッカリな空間なんだろうと、
そのときはじめて《 師匠の言葉の意味 》が、なんとなくですけれど、
“ 脳天に火箸が突き刺さる ” かのように理解することができました。
- その配置は天井面で他の配置とズレてるし
- ダウンライトの間隔は間が抜けまくってて
- 明るいどころかすべて均等に明るすぎだし
- 開けると光る冷蔵庫がLDKで見事に輝いて
- いちばん狭いトイレが家でいちばん明るい
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みなさんこんにちは。
住宅デザイン部 大阪オフィスの【 土井さやか 】です。
ダウンライトの丸という図形は整然と並んでいれば、
“ 上手くデザインされている ”ように見えるのですが、
設置間寸法を持たずに図面に合わせてしまうと穴だらけに見えてしまいます。
ダウンライトの扱いは本当に難しいということを身をもって体験してしまい、
後の私は『 ダウンライトだけ 』の計画は基本的に行わないようにしています。
そこで今回は“ ダウンライトから離れる ” 思考から生まれた照明手法の1つ。
《 見せるライン照明 》でつくる《 線の照明デザイン 》のお話にしましょう。
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空間を構成する要素は、ほとんど「 直線 」で構成されています。
ライン照明を、その「 直線 」に寄り添うように 配置していくことで、
空間の遠近感 “ パースペクティブ ” を強調することができます。
天井と壁の入隅に「 底目地 」のデザイン。
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天井の隅の「 底目地 」のような20mmの溝に
ライン照明を設置しました。
溝は40mmの深さで、器具が天井面より10mm
深い位置に見えます。
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視線を「 庭の景色 」へ誘導する計画。
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サッシに対して垂直にライン照明を配置し、
「 庭の景色 」へ視線を誘導させます。
ガラスにライン照明を映り込ませることで、
光で《 内と外 》を繋ぎます。
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《 吹抜け空間 》をライン照明で整理。
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LDK空間の特徴となる《 吹抜け 》。
その吹抜けの天井際にライン照明を寄せて、
LDKに1本通し、2階も同じライン照明で計画。
乱雑になりがちな《 吹抜け空間 》の照明計画を、
スッキリと整理することができます。
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このように、ライン照明の「 直線 」を建築の「 直線 」に調和させながら
空間が持つ魅力を、引き出していくことができます。
天井面をダウンライトで穴だらけにせず、キレイに残すことも可能です。
それでは、《 見せるライン照明 》でつくる《 線の照明デザイン 》 を
活用した、1件の実例を紹介します。
このお家の設計は游見さんで、天井の形状に特徴があります。
切妻天井の最頂部に「 底目地のようなスリット 」を施工してもらい、
コンパクトな LEDモジュール を忍びこませています。
設計のスサミさん⇒
「 この天井の傾斜面を出来る限りキレイに残したいんです。 」
土井のさやかさん⇒
「 天井の一番高いところに2つの天井面の入隅があります。
そこに細いライン照明をいれる溝を作ることはできますか? 」
設計のスサミさん⇒
「 できます!やります!やってみたいです! 」
土井のさやかさん⇒
「 ありがとうございます!! 」
いくら良い提案をしても、
実現してもらえなければ何も生まれてはきません。
『 できない言い訳 』を並べず、
《 できる方法 》を考えてくれるスサミさんに、
私は心から、感謝の気持ちでいっぱいになりました。
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設計 : 積水ハウス株式会社 神戸支店 遊見 祐奈
インテリア :MAKI CONSULTING OFFICE 中本 牧子
施工 : 積水ハウス株式会社
照明計画 : 土井 さやか
詳細はこちら
■ ライン照明のおさまりと施工
さてさて今回の提案は、天井の一番高いところに、
“ スーっ ” と線を引くだけなので簡単ですが、
ライン照明の『 おさまり 』や『 施工 』のことは、
初めにきっちり、考えておかなければいけません。
- 電源装置の設置場所。
- 溝の寸法。
- コネクタ付ケーブルのおさまり。
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※詳しくは営業担当へお問い合わせください。
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- 高輝度 910 lm/m
- ドットを感じさせないリニア発光
- 市場で一番コンパクトな LEDモジュール:12.6 x 8 mm
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今回使用したのは FGC( エフジーシー:FKK株式会社 )という幅8mm の極細の器具です。
もちろん、器具内にコネクタ付ケーブルはおさまりません。
4700 mm の奥行きの溝に 2320 mm のものすごく長い器具を2本設置し、
両側から1台ずつ電源線に接続し、器具同士を突き合わせました。
長さのある器具を活用しコネクタ付ケーブルは使用しないことで、
『 コネクタ付ケーブルのおさまり問題 』を解決しました。
ちなみにベンチ下も、天井に使用した FGC の器具で統一しています。
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補助照明として、念のため手元用にスタンドライト用のコンセントを設置。
■ ダウンライトを隠す
■ ダウンライトをやめよう。
最初から「 ダウンライトで計画する 」と決めてしまうと、
ダウンライトを増やしたり、減らしたり、整えたり …
それだけなので、表現できることは限られてしまいます。
材料が同じでも「 レシピ 」recipe “ 調理法 ”
を変えれば全く異なる料理になっていきます。
これからも、空間の良さを最大限に引き出す、
アイデアレシピをどんどん増やしていきたい! ですっ!