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2023.02
タカキ ヒデトシ55
Interview
- Hidetoshi Takaki
- 住宅デザイン部
2022年 10月 27日, 17 : 04
「 高木さんの現場に来ています! 」 というメッセージとともに、
埼玉ハウジング営業所の 『 石田ミーオ 』 から、一枚の写真がメールで送られてきた。
扉絵で採用したその写真は、今回で 3回目の登場となる、
ポーラスターデザイン一級建築士事務所の 『 長澤くん 』 と、WEB上で打合せした物件。
すぐさま折返し電話で確認すると、住み手に “ 引き渡し前 ” の現場だということが判明。
数日後、住み手へ “ 引き渡し後 ” の現場に、総勢 11名で駆けつけた。
PC画面に向かいながら照明プランニングを終えた図面を、営業マンや仕事先の設計さんや、
コーディネーターさんに戻すと、このように “ 忘れたころ ” に現場写真がメールで届きます。
わたされた図面データや、紙の束が、《 家 》 の形になったことを目の当たりにする瞬間です。
ぼくは 【 光を読む 】 仕事をしています。
正確にいうと 【 照明器具から照射される光を読む 】 仕事です。
《 明るいか暗いか 》 だけを問題にするのであれば、
「 てきとうに安価なダウンライトを追加すればいい 」
けれども、きれいに仕上げられた天井面に、
致命的ではないにしろ、その傷痕が残ってしまいます。
すなわち 『 ためらい傷 』
ぼくは、このようにしてうまれてしまう、
『 ためらい傷 』 のようなダウンライトは、
絶対に入れたくはない。
けれども、いつも心中は穏やかではありません。
光を読み、想像してプランしただけでは未完成で、
いつだって “ 住まれること ” によってのみ、
《 明るいか暗いか 》 が判断されて、
その物件は結実するからです。
K邸(埼玉県)
- 設計:
- ポーラスターデザイン一級建築士事務所
長澤徹
https://www.polarstardesign.com - 施工:
- 芦葉工藝舎 芦葉武尊
https://www.ashiba.jp/ - 撮影:
- 住宅デザイン部 東京オフィス 今泉卓也
- 照明計画:
- タカキヒデトシ55 WITH 石田ミーオ
詳細はこちら
光だけでは何も見えない。
光がどのように読まれるのかは、そこに住まう人や、その光を見た人しだいです。
ぼく自身にもわからないし、読み方をコントロールするなんてことはできません。
そこに光の難しさがあり、不思議さがある。
光というものはほんとうに不思議なもので、正体がよくわかりません。
わかったと思うことも少しはあるのだけれど、しかし結局わからない。
物が見えるのは、そこに光があたっているからで、空気中には分子やら、埃やら、
目には見えないとても小さなものが、なんやらかんやらたくさんあって、
それに反射しているものを、私たちは光として見ていることになります。
じゃぁ、どうして 《 空 》 は青いのか。
それは光の波長の問題で、波長の短いものほど、空気中の分子やら、埃やら、
なんやらかんやらにあたって散乱します。
青い光は光の波長が短いから散乱しやすいので、空全体が青く見えてきます。
どんどん夕暮れになっていくと、青い光はもっともっと散乱してしまうので、
散乱しにくい波長の長い赤い光が強調されて、夕焼け空になっていきます。
たとえば宇宙空間のように、空気もなければ水もない、風もなければ音もないような、
“ 何もない場所 ” は、光を受けるものが何もないから、
仮に、私たちが宇宙空間にいたとして、目の前を 《 光線 》 が走ったとしても、
それが人に見えることはありません。
何もないから太陽の光も散乱しません。
だから真っ暗になります。
宇宙空間は昼も夜も真っ暗だから、
いつだって星がギラギラ見える。
じゃぁ、どうして 《 色 》 が見えるのか。
《 色 》 というのも波長の違いと関係していて、波長が短くなるにつれ青っぽく見えてきて、
逆に波長が長くなれば赤っぽく見えてきます。
《 色と反射 》 のことで言うと、たとえば葉っぱが見えるのは、葉っぱに光があたっているからで、
葉っぱが緑に見えるのは、簡単に言ってしまうと、葉っぱが無数にある太陽の光の中から、
緑以外の色を吸収してしまって、それで緑色の光だけを反射している。
もちろん精確に言うと、一色だけを反射しているわけではないのですが、
まぁそれが、人の目には緑に見えるってことです。
そこで昼間の太陽のような白色光を、
これまた太陽のような高い位置から、
スポットライト 2台で照らしました。
するとベンジャミンの枝葉が光を受け、
家じゅうのさまざまな面へ、
二重に織りなす影となって、
木漏れ日のように降り注いでいきます。
電球色ではなく、白色光を採用したので、
緑色の葉っぱが、緑色の波長を反射して、
生き生きとつややかに、
家の中心で照り輝いています。
照明が上達する一番の近道は、間違いなく、
《 夜の現場を見る 》 ことです。
ぼくには 『 住宅の照明 』 について、
“ 師匠 ” と呼ぶような人がいないので、
必要なことはぜんぶ現場で学びました。
自分自身が計画した全国の物件を、
“ すべて見る ” ことは不可能なんだから、
他の人が計画した現場を見れば見るだけ、
「 上達するんだよ 」 と、
声を大にしてみなさんに伝えたい。
夜の現場で 《 何を見る 》 のか。
見るべき現場は、すごいとか、上手いとか、きれいといった照明に限るのではなくて、
「 どこ照らしとんねん!」 と言いたくなるような、建築や設備機器の取り合いのミスも、
たくさん見てきました。
暴れた照明もある。 うなずく照明もある。 成功した照明もある。 失敗した照明もある。
だから現場には、たくさんの人に集まってもらって、いろいろな意見を交換していきます。
光そのものがどういうふうになっているのか “ 凝視すること ” がとても大事だからです。
ダウンライトを追加しようかどうか迷うときは、
入れなくても問題ないとき。
迷いながら 「 ダウンライトを入れたい 」 と思うときは 『 そのほうが良くなる 』 という、
自分の “ 信念 ” ではなくて、いつも言われる 「 暗くないですか 」 の言葉からうまれる、
自分自身の “ 不安 ”
ここで使われているダウンライトは、玄関を照らす照明と、廊下を照らす照明と、
植栽の足元を照らす照明を兼ね備えた、2灯使いのダウンライトと、[ 下写真 : 左右 ]
机上の明るさをしっかり確保する 2灯使いのダウンライトと、[ 下写真 : 左 ]
ベッドの足元を照らす照明と、植栽の足元を照らす照明を兼ね備えた、
2灯使いのダウンライトのみ。[ 下写真 : 右 ]
いずれも、床面や机上面の明るさを、天井面から確保するために設置したもの。
言い換えれば、照明器具を設置できる 「 壁がない 」 ということになります。
逆に、天井面に照明器具を設置するしか 「 手立てがない 」 とも言えるのです。
2灯使いのダウンライトの設置間寸法をそろえ、建築の通り芯に従っているので、
それぞれの空間のなかでズレもなく、整然にピシッと、建築へ寄り添っています。
協働する相手が同じ方向を見ているかどうかは、とても大事。
設計図面はつねに 《 設計者の意図 》 が、
明記されているわけではありません。
なので、
設計者が 「 なぜそう描いた 」 のか、
立ち止まって想像すること。
図面に描かれていること以上に、
描かれていないことを読もうとする、
“ 意識 ” が必要です。
できる限り、現場に集い、語らう。
同じ会社であっても、働く環境や、
仕事に対するスタンスが違うから、
『 100% の共感 』 なんてあり得ませんが、
話す相手がいる環境になってはじめて、
お互いに “ 考える ” ことを始めていく。
その照明が本当に正しかったのかどうか、
という答えを求めるというよりも、互いに、
話し合うことで、自分の考えを整理します。
恥ずかしながら知りませんでした、という発見。
ダクトレールへ電源を引き込むための部品に 『 フィードインボックス 』 があります。
一般的には、片側の 『 フィードインボックス 』 から電源を引き込んで、
『 ダクトレール 』 へ電流を流していきます。
今回の現場では、
この 『 フィードインボックス 』 を “ 送り配線 ” の部品として流用しています。
『 ダクトレール 』 を挟み込むように、両側へフィードインボックスを取り付ける、
言わば “ Wフィードインレール ” といったところです。
455ミリピッチで登る梁に “ 送り配線用の穴 ” をあけ、その間あいだに、
Wフィードインレールを設置しています。
ダクトレールの良さは、
- ・ 一カ所からの出線で、何灯も照明器具が設置できること。
- ・ 現場で設置位置を調整できること。
この二つのメリットを 『 梁のある天井 』 で実現しています。
実はこの方法、正直に言うと僕は知りませんでした。
梁の間あいだの天井に直接、ペンダントを設置することで対応してきたからです。
この方法を教えてくれたのは、
埼玉ハウジング営業所の 『 タナベッチ 』 という営業マン。
“ 牛乳瓶の底 ” をメガネにした好青年です。
フィードインボックスの仕様書をじっくり眺めて、
「 送り配線いけますよ、コレ 」 と、ひとこと。
「 マジっすか!」 と感嘆した声をあげ、
その方法で見事に現場をおさめたのが、
おなじく埼玉ハウジング営業所の 『 石田ミーオ 』
この子は入社したときから、僕のことを “ 友達 ”
だと思っている節が見受けられます。
照明の専門家である私たちは、かつてもいまも、
特別な道具を使っているわけではありません。
照明の技術とは、突き詰めていくと、
「 思い込みや先入観をいかに排するか 」
というところに収斂 ( しゅうれん ) するように
思います。
収斂 ( しゅうれん ) とは、
多くの要素や条件などを、
ある一つのものに集約することです。
不思議なことなのですが、始めたばかりの人のほうが、
《 ベテラン 》 と呼ばれる人よりも、必死に、一生懸命に、
現場を見つめているような気がします。
一生懸命ならば “ 必ずよい仕事ができる ”
とは限らないのですが、現場での経験の蓄積によって、
『 見て拾えたこと 』 が、自信につながっていくようです。
残念ながら、照明は 《 失敗を隠しようがない仕事 》 です。
どう言い繕っても、暗いものは暗い。
だから不安になってダウンライトを追加したくなる。
けれども現場に入って、空間の明るさのなかに立つと、いつも、
“ 知るべきもの ” が照らされていることに気づくものなのです。
だから、最後にもういちど、声を大にしてみなさんに伝えます。