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2022.10
田中 幸枝
Interview
- Yukie Tanaka
- 住宅デザイン部 東京オフィス
『 ラーゴムの精神を住宅の間取りやインテリアにも取り入れたい 』
ここから、物語は始まります。
私たち日本人には、ちょっと聞きなれない 「 ラーゴム 」 LAGOM は、スウェーデン語で 「 多すぎず、少なすぎず 」 「 ちょうどよい、ほどよい 」 という意味で、スウェーデン人の “ ライフスタイルの基本 ” を象徴しているかのような言葉となります。
自然と触れ合う時間を大切にし、
インテリアなども本物の素材感を大事にする。
頑張りすぎず、自分にとってちょうど良い働き方を目指し、
休息の時間や、趣味の時間、家族との過ごす時間を大切にする。
自分にとって心地の良い調度品や衣類などを必要なだけ揃える。
《 ファミリーモデル 》 すなわち主人公の設定は、スウェーデン人の夫と、日本人の妻。
共通の嗜好は 『 和服 』 休日には二人で “ 日本の着物 ” を着て出掛けていくこと。
この物語は、《 トヨタホーム東京 》 さんの 『 大宮第2展示場 』 が舞台となって、繰り広げられていきます。
スウェーデンと日本の合流から生まれた、ラーゴムの精神と和素材の融合のご紹介です。
“ 和 ” 素材を際立たせるテクニック
01. 『 障子 』 光壁
1Fダイニングキッチンの吹抜け大空間。
ここは、天井や壁に一切照明器具がついていません。
開放感や採光を求めて吹抜けを設けたのに、設備機器である照明器具がたくさんついていたのでは、 「 ラーゴム 」 らしさが欠けてしまいます。
けれども展示場って、“ 昼に見に来るお客様が大半 ” なので、見た目の明るさはとても大事なんです。
そこでトヨタホーム東京サイドのデザイナーさんとも話し合い、2Fの腰壁に設えられた 『 障子 』 を 《 光壁 》 へと変幻させるお手伝いをさせて頂きました。
『 障子 』 は白い紙と木の桟の素朴なデザインで、空間にやすらぎを与えてくれるインテリア素材です。
この 『 障子 』 を通した光は方々に拡散するため、空間に柔らかさを与えます。
また 「 面発光 」 のため、見た目も明るい印象となります。
腰壁の 『 障子 』 を均一に光らせることができるならば、それはまるで、「 太陽の光が建物を透き通って降り注いできている 」 かのようですよね。
“ 障子面を均一に光らせる ” ためには、障子の背面に、「 器具から発光面 ( 障子 ) までの距離 」と「 器具のピッチ 」 を等しく設置することが基本。
しかし今回は、手摺兼用の光壁のため、壁厚の問題上あまり懐は深く取れません。
“ 懐のために壁厚を厚くする ”
そんな不自然なことをすれば 「 ラーゴム 」 に相反してしまいます。
そこで、腰壁の上下に、
『 LZ LINE 集光タイプ ( 20° ) 』 を設置することで、
懐の幅を 「 50mm 」 に抑えることができ、
また、効率よく光を広げることができました。
■ LZ LINE・集光タイプ ( 20°配光 )
02. 『 大谷石 』 ようよう白くなりゆく
“ 本物の素材感を大切にする ” ここにも 「 ラーゴム 」 の精神が生かされています。
『 大谷石 』 の控えめな地色、素朴であたたかみを感じさせる風合い、それらを生かすには “ 間接照明のやわらかい光のグラデーション ” がぴったりです。
石割の目地に揃えて 「 コーブ間接照明 」 と 「 アッパー間接照明 」 を併用していますが、特に、下から上へと伸びる光の様子は、清少納言が記し残してくれた 【 枕草子 】 の第一段。
「 春はあけぼの ようよう白くなりゆく山ぎは すこし明かりて 」
この情景が頭に浮かびませんか?
清少納言と和素材が、時空を超えて融合したかのようですね。
■ シングルライン
03. 『 格子 』 細くたなびきたる
2Fのホールは、連続する細長い自立の 《 格子 》 が印象的な空間です。
“ 雲の隙間から漏れる光 ” のようなコーニス照明で、その 《 格子 》 を、
「 細くたなびきたる 」 情景へと演出されているかのようです。
じつは 【 枕草子 】 の第一段には続きがあったのです。
「 春はあけぼの ようよう白くなりゆく山ぎは すこし明かりて 」
「 紫だちたる雲の 細くたなびきたる 」
“ 回廊の動線 ” を考えると、雲隠れした器具の 「 発光面が丸見え 」 になりやすいところです。
そこで幕板付きの 『 まくちゃん 』 を使用することで 「 発光面が見えない納まり 」 としました。
『 まくちゃん 』 のコーニス照明によって、素材を引き立てる計画を実現することができました。
■ まくちゃん
雲隠れついでに、もう一つだけ、 《 格子 》 の演出の立役者となる照明手法があるんです。
こちらの 『 垂れ壁造作のコーニス照明 』 です。
■ まくちゃん
建物の構造上、手前の 『 格子のコーニス照明 』 のような、“ 天井を折り上げる納まり ” ができないので、垂れ壁を付けました。
右側の写真の位置でみると、垂れ壁と天井の際に “ 暗がり ” が生まれているのが確認できます。
この “ 暗がり ” が、手前の 『 格子のコーニス照明 』 をより引き立ててくれていると感じました。
展示場は見た目の明るさ感が大事。けれども、「 ダウンライトだらけにするのはちょっと・・・ 」 と、いうときにはコーニス照明がお勧めです。
竣工した展示場に足を踏み入れた時 「 柔らかい印象の空間だなぁ 」 と感じました。 それは、
間取りだけではなくて、
インテリア、照明手法、様々な要素が融合していて、
ちょうどいい空間を作り上げているんだろうな。
と、思ったからです。
この空間での 「 ちょうどいい 」 の定義。
間接照明を主体とし、明暗差を抑えた照明計画は、素材の美しさを引き立て、やさしく空間を包み込む。
今回の展示場のコンセプトにもなっているラーゴムの精神と和素材の融合を通じて「 そんなお手伝いができた 」 と感じました。