30
2022.07
土井 さやか
Interview
日本の野球漫画の第一人者に 『 水島新司 ( 1939年4月~2022年1月 )』 さんがいます。
代表作の 《 ドカベン 》 は 『 明訓高校 』 の選手たちが大活躍する高校野球漫画です。
葉っぱをくわえた 「 岩鬼正美 」 くんに、キャッチャー 「 山田太郎 」 くん。
天才ピアニストの 「 殿馬一人 」 くんに、小さな巨人の 「 里中智( さとる ) 」 くんたちが、おもに 『 阪神甲子園球場 』 で、ズバーンと青春のストライクを投げ込み、カキーンと青春のホームランをかっ飛ばします。
『 明訓高校 』 が漫画のなかで、甲子園大会に出場したときに宿舎としていたのが 《 芦屋旅館 》 です。
ところがどっこい、高3年の 「 春の選抜大会 」 から、宿舎の名前が 《 ホテル竹園 》 に変わりました。
今回の Pro's Way は、その 《 ホテル竹園芦屋 》
大改装計画を担当しましたので、みなさまにご紹介します!
私と 《 ホテル竹園芦屋 》との出会い
それは、4年前の竹園ホテルの新店舗ダイニングレストラン 《 マグネットカフェ 》 の照明計画に携わったことが始まりでした。
《 ホテル竹園芦屋 》 は芦屋の70年の歴史がある芦屋駅前の老舗ホテルです。
創業者である現社長のおじい様が幼いころから丁稚奉公で肉や料理を学び、芦屋で福本商店という但馬牛にこだわる精肉店を始めたそうです。
現在は、読売巨人軍が常宿として使用することでも有名なホテル。
60年前の食糧難で、特にお肉を食べさせるのが難しい時代に水原監督は、 「 竹園がお肉をいっぱい食べさせてくれる、間違いない! 」と唸ったそうです。
精肉店から、レストラン、旅館と展開し、旅館がのちにホテルとなりました。
この様々な形態のホテルは、世界でも 《 竹園 》 が唯一かも知れません。
竹園ホテルの福本社長は《 竹園でしかできない体験 》 を 《 竹園力 》 と呼び、オンリーワンのサービスを提案し続けています。
新店舗の 《 マグネットカフェ 》 は“ 磁石 ” のようにお客様を自然と引き寄せる、がコンセプト。
ホテルクオリティでありながらも、気軽に立ち寄れるカジュアルな雰囲気のカフェレストランです。
マグネットカフェの照明計画
照明計画は、店舗の中心にあるアフリカンチェリーの大テーブル上に、大胆な天井折り上げの間接照明を計画し、こぼれ落ちてくる星のようにペンダントライトをランダムに吊り下げました。
銅蒸着メッキを施したガラス製の 〈 きらめきペンダント 〉 に間接照明が湾曲しながら映り込み、煌びやかに空間を演出します。
美味しい料理と照明に “ 引き寄せられる ” 新しい竹園の形態がまた誕生しました。
宴会場 《 飛鳥 》 楕円形状の光天井
それから2年、同ホテルの宴会場をリニューアルすることとなり、また照明計画のご依頼がありました。
天井のデザインは 『 楕円形状の光天井 』 ということでした。
『 光天井 』 とは天井面に透光性乳白プラスチックやガラス板など、光を拡散透過させる材料を貼って光源をカバーし、ムラのない均一な明るさを保つ照明手法のことです。
ランプ交換などのメンテナンス時には、光天井のパネルをすべて取り外す必要があるため、LEDなど長寿命の照明器具を使用することはもちろんのこと、メンテナンスができるようなつくりにしておかなければいけません。
打合せ当初から照明に関わることで、2つのご要望がありました。
1つ目は「 光天井を均一に光らせたい 」、
2つ目は「 天井高さをできる限り高くしたい 」ということ。
光天井を均一に光らせる為には、天井内の『 ふところ 』を確保することが重要です。
POINT
きれいな発光面のつくり方。
光天井などできれいな発光面をつくるには「 器具から発光面までの距離 」と「 器具のピッチ 」を等しくすることが基本。発光面までの距離に対してピッチが広くなるとムラができてしまいます。
『 ふところ 』 の寸法をしっかり確保するためには、天井高さを300mm以上
下げなければいけません。
そこで問題が発生します。
もう一つの 「 天井高さを極力高くしたい 」 という要望が難しくなります。
予定より天井高さをあと150mm下げてはどうか?
光天井を成功させるためには仕方がありませんでした。
実際の仕上がりは、ルーバー天井のデザインが想像以上に軽やかであり、圧迫感は全くなく竹園ホテルの福本社長にとっても大満足な空間となりました。
宴会場 《 飛鳥 》 に入ると、まるで雲の隙間から漏れる光芒を思わせる、3つの楕円形状の光天井が出迎えてくれました。
光芒といっても、レーザー光のような線光源ではなく、発光面が均一に明るく、眩しくなく、とても優しい印象です。
明るさをしっかりと確保するためにハイパワー間接器具の 『 ダブルライン 』 を使用しています。
熱で反らないよう、乳半アクリルが8mmと厚く、優しく透過する光は美しく上品です。
宴会場 《 飛鳥 》 の照明の初期提案をしたのは約2年前のことです。
実はその後すぐ、私は 『 産休 』 でした。
師匠の 「 タカキヒデトシ54 」 に、後の照明プランの調整や打合せをお願いしました。
この春、私が育児休暇から復帰したのとほとんど同時に、竹園ホテル芦屋の宴会場 〈 飛鳥 〉 が竣工したとご連絡を頂きました(笑)
完成現場に到着すると、福本社長が出迎えてくださり、「 土井さん、私と高木さんは下の名前で呼び合う仲になったんですよ。 」と一言。
私が休んでいる間に、 「 ヨシムネ 」 と「 ヒデトシ 」 はかなり親密になられたようです。
芦屋という地域は、生活スタイルが優雅です。
少しの外出でも小ぎれいな格好をし、言葉遣いがきれいで、富裕層の横の繋がりが強い。
その反面、 “ シビア ” である。サービスと価格が見合っていなければ納得していただけない。
だから 「 芦屋で商売に成功すれば、東京でもどこでも通用する 」 と言われています。
竹園ホテルも、お客様の 「 時代遅れのホテルの食堂みたいやな 」 の一言でホテル内のレストランをリニューアルしたこともあるそうです。
芦屋に磨き上げられた 《 ホテル竹園芦屋 》 に今後も妥協しない照明提案でこたえていきます。