Pro's way

住宅照明のヒミツ

25

2021.06

タカキ ヒデトシ53
 WITH 富和聖代

Interview

engawa KYOTO えん側をでん側につくる照明計画。 タカキ ヒデトシ53 WITH 富和聖代
Hidetoshi Takaki WITH Masayo Tomiwa
住宅デザイン部

そこに集う人々と建築の “ 縁 ” をつなぐ。

かつて、天皇家が居住した 『 京都御所 』 のほぼ真南、阪急烏丸駅23番出口より徒歩2分の位置に、コワーキング・シェアオフィス機能を兼ね備えたビジネスプラットホームを 『 株式会社電通 』 さんが開設した。これからの日本の活動となる 「 事業創造支援を行う場 」 となることを目的とし、日本の住まいの居住性を取り入れたオフィス空間となっている。

天井高さは3000mm。 「 浮いた長押 ( なげし ) 」 の下端は日本の住宅基準の2400mm。長押が連続して並び、長押の間隔は京間と同じ1969mm。路地裏のような趣の廊下を抜けると、鴨川上流から運ばれた砂利が敷きつめられた“ 坪庭 ” に目が留まり、7mのヤブツバキが迎えてくれるという仕掛けが施されている。

設計は、積水ハウス株式会社の 『 加藤誠 』 くんの手によるもので、2020年度のグッドデザイン賞を受賞した。実は20年ほど前に 「 照明を教えてほしい 」 と言って電話をかけてきて、図面やサンプルを両手いっぱいに抱え、愛知県の豊橋市からわざわざ大阪の事務所までやってきたのが加藤誠くん。僕はその熱意と情熱に受けて立ち、二人で 「 ダウンライトゼロ住宅 」 を完成させた。それが “ 縁 ” となり、その後も彼の物件の照明計画を担当させてもらっている。今回の engawa KYOTO も “ 縁 ” のつながり。なので、日本家屋の 《 縁側 》 などについて解説をしながら照明計画についても説明してみたい。

縁側の特徴は曖昧さ、日本家屋の特殊な構造。

縁側は内でもなければ外でもない “ 日本家屋の特殊な曖昧さ ” の構造だといってもいい。 空間を仕切る意識が気薄なこの曖昧さは、庭などの外部から直接屋内に上がる用途を持つため、内部空間になれば 「 広縁 」 「 入側縁 」 外部空間となれば 「 濡れ縁 」 「 外縁 」 などと呼び方がかわっていく。床の板張り方向によっても 「 くれ縁 」 と 「 小口縁 」 や 「 切れ目縁 」 といった呼び方にかわり、既製品を買うことに慣れきった私たちには “ 呼び方 ” にさえ曖昧さの拍車がかかっていく。

建物の周囲に立つ柱を 「 側柱 」 といい、側柱の外側に出る縁を 「 外縁 」 という。外縁は、壁や雨戸などの外側につくられた縁側なので、風雨にさらされると濡れてしまう。そこから 「 濡れ縁 」 と呼ばれるようになった。

一方 「 側柱 」 と 「 入側柱 」 の間を開放して板張りとしたものを 「 入側縁 」 「 広縁 」 と呼び、雨の日でも庭を眺めることができるのが特徴で、旅館の窓側のような椅子や机がおかれている空間となる。この入側縁に畳を敷きつめると 「 縁座敷 」 とも呼ばれる。

縁側は、床の板張り方向で呼び方が変わる。

【 小口縁 】 koguchi – en
【 切目縁 】 kireme – en

昔は縦引き鋸 ( のこぎり ) がなく、薄く長い板を作ることが難しかったため、建物の縁 ( へり ) に対して “ 直角 ” に板を並べ、板の小口を見せた方式。床板が厚く短いものが普通で高級な仕上げ方だった。

【 榑縁 】 kure – en

榑は、伐り出したままの皮のついた材木で厚い板材を指すが、製材の加工技術の精度があがり、長く薄い板でも、建物の縁 ( へり ) に対して “ 平行 ” に板を並べる構造へと発展した方式。近世の縁はほとんどがこの方式である。

建物の縁 ( へり ) に配した照明は “ 切目縁 ” がモチーフ。

engawa KYOTO の一階の天井を構成する 「 浮いた長押 ( なげし ) 」 は、京間と同じ1969mmの間隔で連続して並び、吹き抜け部分を除いたすべての範囲を、建物の縁 ( へり ) から “ 直角 ” に横断する化粧構造。二本で一対とした長押の隙間にベース照明を配置するデザインが採用され、照明器具の存在が長押と一体化している。そして、長押の隙間にすべてベース照明を仕込むのではなく、建物の縁 ( へり ) に沿うようにあえてベース照明を短冊 ( 尺 ) 切りで配置することで、天井面に “ 切目縁 ” の縁側を光で作りだしている。

短冊 ( 尺 ) 切りで配置した照明により、天井面に光の切目縁を作りだした。

縁側には、部屋同士をつなぐ役割と人をつなぐ役割がある。

外部と内部の間に置かれた縁側は、部屋同士をつなぐ “ 廊下 ” の役割をもつのと同時に、「 内部の部屋 」 と 「 外部の庭 」 とを強くつなぎとめ、内外が一体となった世界を作りだしていた。かつての縁側は、玄関脇から建物に沿う形で設置されることが多く、人をつなぐ “ 座 ” の役割でもあった。立ち話では申し訳がないけれど、家に上がってもらうほどでもない。だから縁側に座ってもらうのがちょうどよかった。なので近所の人も気軽に訪ねて来やすかった。そこではコミュニケーションがとれていた。engawa KYOTO の天井には、本来、縁側が持っていた 「 つなぐ役割 」 としての “ 切目縁をモチーフにした光の縁側 ” が浮かびあがる。

engawa KYOTO 京都市下京区

施  主 : 株式会社電通
設  計 : 積水ハウス株式会社 加藤誠
施  工 : 積和建設近畿株式会社
撮  影 : 安田慎一
照明計画 : タカキヒデトシ53 WITH 富和聖代

用材 : シナ合板( 小口:積層合板風シート貼り )t21
仕上 : クリアウレタン( 全消し )
色番 : クリア

多目的ホールでは長押すべてにベース照明を配置。

坪にかかる階 ( きざはし ) に坪庭の光景がある。

「 坪 」 とは、四方を個別の空間 ( 建物 ) と渡り廊下で囲われた “ ロの字 ” の区画のことで、建て込んだ空間に太陽の光や風を導きいれる場所。その坪で行われる催事にたいして、支障をきたさない位置に草木などを植えた場所を 「 坪庭 」 と呼ぶ。

「 階 ( きざはし ) 」 は、高さの異なるところを連絡する “ 等分して段になった梯子 ( はしご ) ” の意味で、この字には二つの言葉が隠れている。一つは 「 きざ = 刻 」 もう一つは 「 はし = 橋 」 そこから二つが合わさり “ かけ離れたところに渡すもの ” を表す 「 階段 」 に転化した。

engawa KYOTO には “ ロの字 ” で囲われた 「 坪 」 のなかに 「 坪庭 」 が配置されているのだが、オフィスビルの中央部に位置し、トップライトも施設できず外光が行き届かないという条件。植物の成長を維持するためには光合成を促す必要があるため、人工的な照明で活路を見出した。

植物の光合成に必要な光は、太陽光の中にある赤と青の色。

光合成は、光のエネルギーを利用して無機炭素から有機化合物を合成する反応で、その過程で水が分解されて酸素が放出されるといった生化学反応のこと。大雑把に言ってしまえば太陽の光と、水、十分な二酸化炭素が必要だということなので、太陽光が届かないときには、その代わりとなる照明をあてて “ 太陽光の不足分 ” を補う必要に迫られるということになる。

植物の光合成にはまず 《 照度 》 すなわち明るさがいる。最低でも 「 1000 ~ 1500lx 」 が必要だとされている。次に光の色が関係し、赤い光は開花を促し、青い光は葉や実を大きくさせ成長を促す。

颯のようにあらわれて、颯のように普及したLED。

従来の植物用の人工光源には、開花を促す赤い光の 「 高圧ナトリウムランプ 」 そして成長を促す青白い光の 「 メタルハライドランプ 」 を使用するのが一般的で、光が強く、広範囲に光を照射することができたのだが、ランプ自体がとても大きかった。なので “ 照明器具 ” へと形を変えた場合には、反射板や安定器も必要でさらに大きくなった。消費電力も高く、熱も発生し、植物に近づけすぎると焼けてしまう恐れもあった。だがそこへ救世主のごとく “ LED ” が颯爽とあらわれた。

LEDの光は直進性が強いため必要な照度を十分に補うことができ、同時に熱を持たないので植物に負担をかけることもない。光の色味も変幻自在につくることが可能で、照明器具へと形をかえても、今までとは比べ物にならないほどコンパクトなサイズとなった。
しかしながら “ 赤と青の光の色が植物の光合成を促す ” とは言え、さすがに 「 真っ赤な坪庭 」 や 「 真っ青な坪庭 」 をつくることは僕にはできない。加藤誠くんも絶対に 「 イヤだ! 」 と言うに決まってる ( 本人に確認はしていない )。そこで、自然光 ( 太陽光 ) と言われる 『 白色光 』 4200K ( ケルビン ) を基準とすることにきめた。

白色光は、可視光線のすべての波長の光 ( 色 ) が均等に混ざった光で、色合いの感覚を与えない光 ( 色合いのまったくない光 ) で、正午などの太陽光はだいたい白色光だと考えてもよい。

そして、光が当たる部分にムラを出さないよう “ 樹木の真上 ” に、9台のハイパワーダウンライトをスクエアの形状で設置。外光を取り入れるためのトップライトの代わりでもある。さらに、器具の存在を感じさせず光だけを照射するために 「 グレアレスダウンライト 」 を採用した。

しかし、実際の太陽光はあらゆるものに光が当たり、さまざまな方向へ跳ね返ってきている「 包囲光 」 であり、 決して真上からの光だけではない。そこで、包囲する光は間接照明で補っていくのだが、それでも照度不足が考えられるため、二階の天井面の隠れた位置にダクトレールを配置しスポットライトの増設ができる対処を施している。

移ろう。眺める。くつろぐ。とどまる。

本来の 「 坪 」 は、私的な儀式や行事などの舞台でもあったため “ 行き来できる ” ことが前提にあり、建築と庭との接点には 「 階 ( きざはし ) 」 が架けられた。建物の中央に位置する回り階段は、主な動線が集中するターミナル。利用者がいつもここを往来し活気づいている場所。
engawa には、移ろう。眺める。くつろぐ。とどまる場所の特性が備わっている。

「 えん 」 側は 「 でん 」 側にある。

僕が子供のころの住宅は 「 増改築 」 によっていろいろと様変わりしていった。「 えん 」 側を増築するときには 「 でん 」 側に “ 縁側 ” をつくると言った。「 縁 」 は 「 ふち / へり 」 を表す漢語で 『 椽 』 とも書き 「 でん / てん / たるき 」 と読む。すなわち 『 椽 = 垂木 』 なので、軒の裏側を意味している。 「 側 」 はその周辺を意味する和語である。

なので 「 でん側に縁側をつくる 」 と言うのは 「 軒の下に縁側をつくる 」 と言う意味なのだ。

『 椽 ( でん ) 』は、丸いたるき。
『 桷 ( かく ) 』は、四角いたるき。

今は総称して 「 垂木 」 になった。

このような、日本建築の言葉に潜む “ 分母 ” の消息は、私たちが生み出すアイデアのシンボル ( 象徴 ) としての役割を果たすと同時に、今も昔も 《 未来への啓蒙 》 でもある。

今回は 『 engawa 』 から寄りそって出てきた 「 つながり ・ えにし 」 という関係や、それをきっかけに生じた 「 原因 ・ 理由 ・ わけ 」 を中心に “ 言葉の意味 ” を説明してみました。
言葉の意味を “ 観察する ” こと自体が 《 アイデアを生み出すヒント 》 になるので、ぜひ皆さんも実践してみてください。

『 engawa KYOTO 』 は、納入事例集にも掲載しています。
その他の現場も “ 見どころ満載 ” ですので、ぜひご覧ください。
納入事例はこちら

また 『 商店建築 』 2021年 4月号 134ページにも掲載されていますので、あわせてご覧ください。

ご精読ありがとうございました。