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2021.01
田中 幸枝
Interview
- Yukie Tanaka
- 住宅デザイン部 東京オフィス
話しの切り出しとしては唐突なのですが、長野県松本広域公園総合球技場 SUNPRO ALWIN『サンプロアルウィン』(略称:サンアル)をご存じですか?
日本アルプスにちなむ「Alpus(アルプス)」と、英語で“風”を意味する「Wind(ウインド)」を組み合わせた造語が「Alwin(アルウィン)」なのですが、その接頭辞として「SUNPRO(サンプロ)」が冠してあります。
サッカーやラグビーなどに使用される専用スタジアムで、2018(平成30)年に住宅会社の《株式会社サンプロ》さんが命名権を取得され SUNPRO ALWIN『サンプロアルウィン』(略称:サンアル)と名付けられました。
その《サンプロ》さんのショールームを兼ね備えたオフィスをなんと、私『田中ユッキーエ』が担当させていただきました。
「田中」は、親が田中なので必然的に漢字の田中となったのですが、カタカナの“ユッキーエ”は、師匠のタカキヒデトシ52が命名権を行使し、勝手につけた愛称です。
上の写真は、正面玄関の入り口部分の「エントランス」
“路面店”のため道路から見える『ファサード』のイメージを大切にしました。
ファサードの語源はフランス語で façade とつづります。それが英語に引用されてフランス語の“C”の下にある「ヒゲ」(正式にはセディーユ)がとられてfacadeとなった言葉で「店舗正面の外観」のことです。今は英語でもヒゲをつけたfaçadeとつづることが多くなりました。そして文字の中をよく見ると「face(顔)」が入っている。なので、その建物のもっとも見せ場となる「顔」であり、集客にも関わる重要な場所という意味があるからこそ『ファサード』のイメージを大切にしました。
正面の受付カウンターには、地元『信州の木材』をふんだんに使用したアクセントウォールが施され“右肩上がり”のデザインには《企業と地元の成長を祈念する》という意味が“象徴”としてあらわされています。照明のテクニックを披露しようと思えば、光の方向を自在に振ることのできるユニバーサルダウンライトで“右肩上がり”に光を沿わせることもできるのですが、私は《安定した企業と地元の成長》を表現したくて「普通のダウンライト」を採用し壁面に沿わせました。
筒状のものから出てくる光は「円錐形」を描きます。
円錐の底面に対して鉛直に切った断面形状のことを「双曲線」というのですが、天井面に設置された“ダウンライトからの円錐形の光”を壁面に近づけると、断面形状である「双曲線の光」が壁面にあらわれてくることになります。左右がシンメトリー(対称)である双曲の光。末広がりで安定した双曲の光によって「企業と地元の成長」を幅広く輝かせたい!
このような思いで、アクセントウォールを6台のダウンライトで印象的に照らしました。
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壁面に対して均一に配置をすると光が壁面からはみ出してしまう
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配置を偏らせると壁面に収まるが、光の当たらない部分も生まれる
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普通のダウンライトの光は壁面に対して双曲線を描く。均一に配置をすることで、企業と地元の「安定した成長」を光で表現した。
ちなみに《大光電機株式会社》の社章も“右肩上がり”のデザインなんです!
デザイナーは、昭和期の日本を代表するグラフィックデザイナーで、奈良県奈良市出身の『田中一光』さん。(2002年 71歳没)
《人とあかりの調和を考える》という理念の光が、右肩上がりの放射線状で伸びていくロゴデザインとなっています。このように“右肩上がり”のデザインは、時と場所を越えて『意味』でつながっているものなのです。
《人とあかりの調和を考える》という理念の光が
右肩上がりの放射線状で伸びていくロゴデザイン。
《サンプロ》さんの空間は“黒”を基調色とした構成。
ダクトレールとスポットライトをメインにした照明計画を施してあります。
まずは『ミーティングスペース』
ダクトレールを“三列”に配置し、左右のダクトレールのスポットライトによって、観葉植物や棚の展示物など「壁面」への集中光を確保しています。
中央のダクトレールに設置するスポットライト(30°配光)には、光を拡散させる“フラッドレンズ”を装着。光を広げることによって「ベースライトの役割」をもたせ、打ち合わせスペースにふさわしい光環境に仕上げました。
FLOOD LENS
フラッドレンズ
スポット光のピークを低減し優しい光を照射する拡散レンズ。輝度を抑えて眩しさのない上質な空間を提供します。
中角形スポットライト + フラッドレンズ
●使用器具/スポット LZS-91743YWE(別注黒塗装)、フラッドレンズ LZA-90635
突きあたりの什器には、発光面積がわずか“12.5㎜”で、なおかつ点灯するLED素子の粒々がわからないドットレス仕様の「コンパクトライン」を“棚下の間接照明”として設置しています。
立った状態では棚の裏側は見えなくても、着座したときに視点が下がり、棚板との視点の高さ関係が“逆転”し、裏側が見えてしまうことが必ずあります。このような場合には、発光面の美しい「コンパクトライン」によるライン照明がおすすめです。
コンパクトライン
次は『オフィススペース』
天井面は白ですが、黒を基調色としているのでダクトレールとスポットライトは黒を採用。ただし、あくまでも用途は“オフィス”なのでベースライトの併用による計画としています。
ここでのスポットライト(30°配光)には、50°に配光を広げることのできる「ワイドディフュージョンレンズ」 を装着しました。
指向性の強い光を放つのがスポットライトです。なので、作業時には手元に影が生じてしまいます。 まったくの「無影」にすることはできませんが、できるだけ影を和らげるために「ワイドディフュージョンレンズ」 を採用しました。さらに、眩しさを軽減するための “ フードカバー ” も装着しています。
●使用器具/ベース照明 LZB-92974 NW、スポット LZS-91734 YBE(別注 白色4000K)、ワイドディフュージョンレンズ LZA-92557、フード LZA-92561
WIDE DIFFUSION LENS
ワイドディフュージョンレンズ
広角のスポット光をさらに広拡散させるレンズ。スポット器具へ装着することで均斉度の高いベース配灯計画を実現します。
広角形スポットライト + ワイドディフュージョンレンズ
HOOD
フード
照明器具の直射グレアを低減するカットオフフード。輝度の少ない、人に優しく上質な空間を実現します。
広角形スポットライト + フード
近年オフィス空間では、IT機器の充実によって特定の机をもたない「フリーデスク」など、フレキシブルさが求められるようになってきました。また、日常の業務時では明るく、プロジェクター使用時の会議などではスポットライトのみ点灯する。といったような使い分けも増えています。
《サンプロ》さんのオフィスでもフレキシブルな使い方がなされるために「ベースライトとスポットライトの組み合わせ」に至りました。
スポットのみ点灯
ところが、ダクトレールを使用したオフィス空間をつくるためには《もっと重要なこと》が潜んでいます。それは『机とエアコンとダクトレール』の配置。
この三つは一つの空間において、いつもバラバラに考えられてしまいます。
・まず平面的な机のレイアウトが優先され、そのイメージだけで決定する。
・天井埋込型エアコンは、室内の「空調負荷(熱負荷)」の計算によって必要台数が求められるため、空調関係者が台数と設置位置を決定する。
・ダクトレールは、優先された空調を避けながら配置するしかない。
これだと、図面的にはうまく配置ができたとしても現場に入ると、スポットライトの設置位置や照射方向で苦労するはずです。この関係を “ 一緒に考える ” ことが出来ないのであれば「ダクトレール + スポットライト」でのオフィスは困難です。
机とダクトレールの位置が離れすぎてしまうと、光を無理やり机上面に照射するため、スポットライトの首振り角度が付きすぎてしまい不快な眩しさを生んでしまう。これでは仕事に集中することなどできません。
天井高さが高くなればなるほど首振り角度はつかなくなり、眩しさも抑えられるのですが、光量が減少してしまうため 「ハイパワー」のスポットを選択する必要にせまられてしまいます。
ここで、机の配置とダクトレールの位置関係を簡単に図で説明します。
ダクトレールの設置は机の「長手方向」に“平行”がオススメ
机の「長手方向」の配置に対して“平行”でダクトレールを設置する場合。
机の「長手方向」の配置に対して“直交”でダクトレールを設置する場合。
スポットライトは一人に一台の設定とする
机の上部のスポットライトは“真下”を照らすことができるため「ベースライト」としての役割をになうことができる。
机から離れるとスポットライトに“首振り角度”が生じる。
光は机に届くのだが、光源が丸見えとなってしまい不快な眩しさも同時に生んでしまう。
このようなことが必ずおこるため、机の「長手方向」の配置に対して“平行”で ダクトレールを設置するほうが的確に光を照射できるといえる。
ただし、あまりにも机から離れると“直交”の場合と同じこととなる。
そのうえでエアコンの設置位置を検討することが望ましい。
「首振り角度」がつくほど光源が丸見えとなり
不快な眩しさが生じる
天井が高ければ「首振り角度」がつかなくなる
光が減少するため「ハイパワー」が必要となる
「首振り角度」がつくほど光源が丸見えとなり
不快な眩しさが生じる
机の配置に対して“平行”でダクトレールを設置した方が、間違いなく的確に光を照射することができます。
まずはこのことを考慮して平面レイアウトを考えて頂きたいんです。
そして、天井面に設置される空調とダクトレールの設置位置を決めていく。
この順番でなくては、誰が計画してもスポットライトの設置位置や照射方向で苦労してしまうんです・・・。
最後に、ショールームの住宅空間展示スペースをご紹介します。LDK、坪庭、寝室がひと続きになった斬新な間取りになっています。間接照明とグレアレスダウンライトをメインにプランしました。こちらの物件は、ほかにも見どころ満載ですので、納入事例集もあわせてご覧ください。
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吹抜けキャンディーズデビューから早4年半。
コロナ禍でもリモートワークで精力的に活動中。
私事なんですが、2人目の子供を出産し、一昨年6月にやっと復帰したと思ったらコロナ。当初は不安でしたが、リモートワークは育児と両立しやすいし、打ち合わせはオンライン会議で可能。何より、セミナーが場所を気にせず、以前よりたくさん開催できているので、かえって充実している感じです。
この4年半の間に、照明のトレンドも変化してきていますし、私たちのチームも住宅だけでなく、ホテルや施設など様々な案件の照明デザインを担当するようになってきています。リモートワークやStayHomeなど、家の役割も変化してきていますよね。特に私は、いま子育て中ということもあって、照明で子供や家族の生活リズムを整えられるようにと考えてプランしています。これからは住宅以外にも、保育園や子ども病院など、ママ目線が活きる案件をどんどん担当していきたいですね。「DAIKOに“田中ママ”在り!」って覚えていただけるよう、1つ1つの案件に取り組んでいきたいと思います。