■ 委員長:講評
平田 晃久 ( 建築家 / 京都大学准教授 / 株式会社平田晃久建築設計事務所)

「感情を持ったあかり」

少し間違えると消極的な案ばかりになってしまう恐れもあるテーマだっただけに、予想以上に楽しい審査会になった。全ての参加者や関係者に感謝したい。

金賞の「あかりを求めると現れるスタンドライト」は繊細で完成度の高いデザインでありながら、人の感情に訴えかける提案である。ペンを引き抜く動作と、そこに現れるあかりの姿が連動し、形としての光というよりは、ある種の痕跡というか残り香のようなものを感じさせるところが、最優秀に輝いた魅力だろう。

惜しくも優秀賞になった「線香ライト」は、個人的に最も惹かれた提案である。煙のように不定形なものを可視化する現代的なアプローチでありながら、肩肘張らない、とても自然体なプレゼンテーションが共感を誘った。作者はまだ学部生だというから、ぜひその自然体な魅力を失わずに、より高度な世界に進んでいってほしい。

逆に最も残念だったのは「誘う灯」のプレゼンテーションである。生きた猫に心拍数と連動したあかりの首輪をつける、という動物愛護団体からお叱りを受けかねない案だが、生身の猫と一緒に動く呼吸する灯が、薄暗い会場を沸かせる出来事は起こらなかった。とはいえこの案のポテンシャルは高い。

「線香」や「猫」は一見ふざけているように見えてしまうのだが、あかりというものが、生身の存在に近づき、性能や効率を超えて人の感情を動かす、テクノロジーの行き着く先を暗示してもいる。若い作者たちが、より徹底して、全ての審査員をねじ伏せるような、それでいて不思議に自然体な、そして無謀な提案をこれからも出し続けてくれることを願っている。

その他の提案も、生ものというわけではないものの、何か情緒に訴えかける優れたものだった。おそらく照明器具だけでなく、現在は性能だけを求められているように見える全てのものが、単に性能を満たすだけでなく、人にとって対話の相手のような感触を持ったものになっていくのだろう。そのとき、かつて照明器具として知っていたものではないあかりが生まれるのだろうし、建築においても同じようなことが起こるのだろう。