■ 審査委員長:講評
手塚 貴晴 (建築家 / 株式会社手塚建築研究所 / 東京都市大学教授)
レベルの高いコンペであったと思う。これだけの力作が集まっているのに、六作にしか賞を出せないというのは残酷である。表彰式の後、改めて見て回ると、他にも「これ欲しい」と思われる作品が軽く十作は見つかる。何が受賞作とその他を分けたのか? それは作品そのものを超えて滲み出る物語にある。現代人は身半分を夜の中において暮らしている。照明がもたらす変化は絶大である。最後まで最優秀を争ったのは、線香の煙を光らせる作品とペンを持ち上げるとペン立てである。その差は僅差。ペン立てが勝利したのは時の運に過ぎない。線香案についての批評は、これが照明ではなく仏具ではないかという疑問であった。なるほど細々と立ち上る煙を照らしても、周りは明るくならない。ペンに関しては使い道がある。少々ムーディーなホテルのレセプションのカウンターで、ペンをふと取り上げた折に灯る明かりは感動を呼ぶに違いない。コンセントに差し込む曲がったライトセーバーも気に入った。多分買う人もいるであろう。私は絶対に買う。しかし可愛げがない。ほかの審査員の票がついてこないのは、この種のコンペにありがちな審査員側の色気のせいであろう。建物の角に巣喰い、空間の輪郭浮き立たせる照明もかなりの件数散見された。これらに関しては、すでに同様なアイデアがマーケットに商品化されているとのことで受賞が見送られた。丸い輪に紙を貼った照明はエレガントである。これはテーマが違えば上位の賞を受けられたと思う。しかし明らかに照明そのものが主人公になっている。他の機会に出し直しては如何かと思う。

果たして要項通りに照明は見えなくなったのか。結論としては消えていない。当たり前の話である。しかし目的は達せられている。大切なのは存在を消さんとする試行錯誤のプロセスである。この設計競技を機会として、見えない照明を作る機運が高まってくれれば嬉しい。