Pro's way

住宅照明のヒミツ

35

2023.06

安部 真由美

Interview

力士も、デザイナーも、真剣勝負! 安部 真由美

Mayumi Abe
住宅デザイン部 大阪オフィス
初日

時は天歴( 956 )10年 5月。  宮中に使えていた「 坂田蔵人( くらんど )」さんと、
京に上った彫り物師、十兵衛さんの娘の「 八重桐( やえぎり )」さんとのあいだに、
足柄山伝説で有名な、あの『 金太郎 』さんが誕生します。

「 まさかりかついで きんたろう
くまにまたがり おうまのけいこ♪ 」

で、はじまる童謡で唱歌の『 金太郎 』
二番目の歌詞は、このようにつづきます。

「 あしがらやまの やまおくで
けだものあつめて すもうのけいこ
ハッケヨイヨイ ノコッタ♪
ハッケヨイヨイ ノコッタ♪ 」

ハッケヨイヨイは、大相撲の取組のなかで、その取組に立ち合い、その勝負を判定する役である『 行司 』さんが、
力士が組み合って動かなくなったときに使う“ 掛け声 ”で「 はっきょい 」「 はっきょ~い 」とか言っている
アレです。

漢字で綴ると《 発気揚々

力士が組み合って動かなくなったときに、困りはてた行司さんが、

君たちさぁ。もっと気分を高めてさぁ。全力勝負しなさいよ!

と、発破をかける意味合いが込められています。

また《 発気揚々 》は、
「 早く競え 」を意味する「 早競へ( はやきほへ / きおえ )」が
語源にあるようです。

みなさん、こんにちは。
住宅デザイン部大阪オフィスの『 安部真由美 』です。
【 大相撲名古屋場所 】の開催時に『 二所ノ関部屋 』の
宿舎として利用される、
《 AI - BASE AICHI 》 を担当しましたので “ 相撲の歴史 ” を
少し織り交ぜながら、ご紹介したいと思います。

《 AI - BASE AICHI 》は、(株)アイ工務店さんと、
愛知県安城市さんとが、
“ がっぷりよつ ” に組んで、地域の活性化を目指した施設です。
相撲というスポーツ活動を通じて、相互に連携協力する協定を、
令和 4年 6月 22日に締結しました。

その名も【 がっぷりよつ協定 】

《 がっぷりよつ 》は、両者がしっかりと四つ身で組み合うさまを
表していて、
そこから転じて『 物事に真っ向から取り組む様子 』を
指す表現に用いられます。
なんとも “ ドスコイ ” なネーミングですね。

「 あっ!」 思わず “ ドスコイ ” なんて言葉を使ってしまいましたが、
“ ドスコイ ” とは『 大きい・太い 』などを意味する西日本で使われる方言からきています。
【 がっぷりよつ協定 】のネーミングは、力士のイメージに “ ぴったり ” です!

AI - BASE AICHI は、建物内外に2面の土俵を常設している施設です。

建物内の稽古場には、親方が座る『 上がり座敷 』と『 土俵 』とが、
まっすぐに高く駆け上る勾配天井の下に配置されています。

  • 稽古場
  • 上がり座敷

現在の『 二所ノ関部屋 』の親方は、第 72代横綱『 稀勢の里 』です。
稀勢の里( 二所ノ関親方 )は、兵庫県芦屋市で生まれ、2歳のときに家族と一緒に茨城県へ移住します。
子供のころから相撲が大好きで、中学校を卒業してすぐに、自ら『 鳴戸部屋 』に入門しました。
十両、入幕昇進は貴乃花に次ぐ記録で、白鵬の連勝を六十三で止めちゃいます。
そして 2017( 平成 29 )年に、貴乃花が引退してから十四年間も途絶え、日本国民が熱望していた、
“ 日本人横綱 ” にまでなっちゃいました!
だから私には、足柄山の【 金太郎 】さんが “ 再来 ”してきたかのように思えてしまうのです。

あれ? 私って意外に『 スモ女 ? 』 いやいやとんでもありません。
師匠のタカキヒデトシ55は、もっと【 スモ男!】です。

今回の現場の原稿を書くにあたり【 相撲のこと 】について、師匠にアドバイスを求めました。
すると師匠が・・・。

「 もともと相撲の番付は、大関までしかなかったって知ってる? 」

「 横綱って名称はさぁ、明治 20年頃に活躍していた大関の
“ 西の海 ” って関取が、
張り出し大関になることにダダをこねたから、
前例のない地位の “ 横綱 ” ってのをこしらえて、
納得させてできた番付なんだよねぇ 」

へ?なに?なに?それ? 何の話? 師匠・・・私、その話についていけません!

「 まぁ、今の若い人たちは相撲をテレビで見ることもないだろうから、
“ 番付 ” が、どんなふうに決まるのかを調べて、書いてみたらどうかなぁ 」

「 ば、ば、番付ですか? それなら何とかなりそうです。 調べてみます! 」

こんなやり取りのおかげで、私は “ 番付 ” を調べるはめになってしまいます。

年六回の本場所で、力士の【 番付 】が決まる。

大相撲は、年に六回《 本場所 》と呼ばれる興行が行われます。
場所の成績によって力士の地位や序列といった【 番付 】が決まります。

【 番付の地位 】上から強い順に並びます。

相撲の世界では『 十両 』以上の力士が一人前として認められます。
《 化粧まわし 》も《 土俵に入る前の塩まき 》も十両以上の力士にしか許されません。

『 幕下 』以下の力士は、他の力士たちと大部屋で共同生活を行い、厳しい稽古に励みます。
『 十両 』になると個室を与えられるため「 個室が欲しい 」という思いが、稽古を頑張る原動力となるそうです。

吹抜けを優しく包み込む間接照明。

稽古場

設計:(株)アイ工務店 デザイン室 https://www.ai-koumuten.co.jp/
施工:(株)アイ工務店
撮影:稲住写真工房
照明計画:安部真由美

詳細はこちら

稽古場には必ず 《 神棚 》《 てっぽう柱 》そして《 土俵 》があります。
土俵には、本場所と同じ『 荒木田土( あらきだつち )』 が使われています。
荒木田土は埼玉県川越周辺で採れる土で、
田んぼの耕土下や、河川敷などの下層でみられる粘土質。
色は灰色または灰褐色をしていて、土質としては腐植質が少なくよく粘る。
なので “ 土俵づくり ” にとても適している。
だから、
全国各地で開催される本場所の土俵は、
川越から土を運んでつくられているのです。

このような吹抜けの稽古場は全国的に大変珍しい。

東西の鴨居長押に照明器具を納めるスペースを設けて、間接照明で明るさをとりました。
稽古場を《 包囲光 》で包み込むために、照明器具はハイパワーの『 ダブルライン 』を採用。
長さ9mの長押の水平線から “ すっと ” 立ち上る光で、壁と天井面を間接光で照らし上げると、
稽古場全体に光がまわり、天井の高さも強調されていて、圧巻の大迫力でした!

間接照明と梁の関係。

間接照明を成功させるポイントは、
天井までの開口を 200 以上確保すること。
ただし梁のある空間では
開口を十分に確保していても、
光が遮られて暗がりを
生んでしまうことがあります。
間接照明を活かすには『 梁の方向 』と
『 間接照明の方向 』が大切です。

POINT

間接照明の設置場所に注意!

梁空間で、間接光を効果的に使うには『 梁 』と 『 間接照明 』 を直行させるのが
ポイントです。 平行にすると梁で光が遮断されてしまいます。

  • 〇 「 梁 」 と 「 間接照明 」 が 直交
  • △ 「 梁 」 と 「 間接照明 」 が 平行
  • 「 梁 」と「 間接照明 」を平行に設置した場合。
    梁によって光が遮られ、梁横の天井が暗がりになります。
  • 両サイドから照らすと、
    梁の影を緩和することができます。

私は、間取りによっては、間接照明をおすすめしない時もあります。

玄関ホール
玄関の間取り
正面奥の壁はタイル張り。
照らすと映える面材です。
L字の壁が勝手口へと続きます。

その一つが『 出隅 』のL字型の壁。
「 人の位置によって照明器具が
見えてしまう 」ことがあるからです。

照明器具の丸見えを防ぐために、
天井の奥行きのフトコロを必要以上に
確保しなくてはならないし、
照明器具を隠せば隠すほどに、
光は天井内に飲み込まれ、おまけに
施工も困難になってしまいます。

今回はダウンライトを壁に寄せて配灯し、器具同士の間隔を 600 mm と詰めることで
「 面 」として照らすことに成功しました。

POINT

器具ピッチによる壁面の見え方の違い

ダウンライトの器具ピッチを狭くすると、光の山が一体となり面の光となります。広くすると、光の山が際立ちリズム感が生まれます。

DDL-6102YW
60°配光
  • ■ 器具ピッチ 550mm
  • ■ 器具ピッチ 750mm
  • ■ 器具ピッチ 900mm

壁からの距離 250mm

地面に張った縄張りの綱が【 横綱 】の起源。

今回の原稿を書くにあたりこんどは【 稀勢の里のこと 】について、師匠にアドバイスを求めました。
すると師匠が・・・。

「 安部ちゃんさぁ、おしん横綱って知ってる? 」

「 隆の里っていう関取なんだけど、当時の連続テレビ小説で《 おしん 》っていうのをやっていて、
確か脚本が橋田壽賀子だったと思うんだよなぁ。明治から昭和までの激動する時代を生きるドラマで、
少女期が小林綾子。中年期が田中裕子。晩年期が乙羽信子が演じてて、日本中に “ おしんブーム ” が、
起こったんだよねぇ 」

「 隆の里は糖尿病を克服して横綱になった人だったから、その不屈の姿が《 おしん 》と重なったので、
おしん横綱って呼ばれていたんだ。引退後に鳴戸親方になって、そこに稀勢の里が入門してきたんだよ 」

へ?なに?なに?それ? 何の話? 師匠・・・私、その話についていけません!

「 まぁ、今の若い人たちは風水とか陰陽五行とか知る由もないだろうから、
“ 横綱 ” が、何から始まったのかを調べて、書いてみたらどうかなぁ 」

「 よ、よ、横綱ですか? 私、照明のことを書きたいんですけど ・・・ 」

「 いいって、いいって。 照明ってのは、ただキレイな空間をつくればいいってもんじゃないんだから、
日本の伝統だとか、文化だとか、とくに今回は国技の相撲でしょ。そういった奥の深い部分を調べて、
そして知って、 それを建築や照明に具現化していくのがデザイナーの仕事なんだから大丈夫だって 」

[ 地理宝鑑横綱之図 ] ( 師匠は何で、こんなのを持っているんだろう )

「 あ、そうそう。これが《 地理宝鑑横綱之図 》ね、渡しておくわ。
十干( じゅっかん )十二支( じゅうにし )に次ぐ
十二直( じゅうにちょく )の文字が、
七×七=四十九の基盤目に配置されてるやつなんだけど、
昔はこれを暦にあてて、大安とか吉日とか凶日とかをみてたんだ。
この四十九土を綱で分けていたから、その綱が横綱って呼ばれた。
これが横綱の起源ね。そして文字の吉凶に善土凶土の印をつけて、
その上を地踏みする。これが四股を踏むの起源になったってわけ。
この作法を教えられた力士が “ 地鎮めの法 ”を行うことになって、
それが郷土力士の土俵入りに発展していったっていう経緯なんだ 」

「 師匠、それってもう、横綱の答えなんじゃないですか?」

「 あ、ほんまや答えやわ。じゃあ雲竜型とか不知火型とか、
アニメにもなってる史上最強の力士、雷電為右衛門なんかどお?」

「 師匠、私、照明のことを書きたいんですけど ・・・ 」

「 照明のことを書いてもいいけど、おもしろく書くようにね 」

こんなやり取りのおかげで、そろそろ “ 結びの一番 ” になってしまいました。

結びの一番。

厳しい稽古も大事ですが、力士にとって
稽古の次に大切だとされるのが、
あの大きな体格をつくる「 食事 」

力士がつくったり食べたりする料理はすべて
“ ちゃんこ ” と呼ぶそうで、その “ ちゃんこ ” が、
思いっきり引き立つライティングを目指しました。

板張り天井の中央に黒のスリットを設けて、
スリットの中に「 集光ダウンライト 」を雲隠れさせ、
光だけが落ちてくる。
それを見た力士たちは目の前の
“ ちゃんこ ” にまっしぐら!
だと、思います。

稽古は稽古。食べるときは食べる。寝るときは寝る。
メリハリのある生活を過ごしてもらえるような
照明を計画させてもらいました。
『 二所ノ関部屋 』のみなさん頑張ってください! 

食堂
  • 階段ホール
  • リビング
  • 大部屋

力士の皆さんは、本場所が始まれば毎日が真剣勝負。
勝ち越せば番付が上がり、負け越せば下がる。

私も、美しい建築と《 調和する光 》をお届けするために、
毎日が真剣勝負です!

これにて千秋楽