Pro's way

住宅照明のヒミツ

32

2023.01

山本ジュリー

Interview

雲は湧き、光あふれて八雲立つ。 山本ジュリー

Julie Yamamoto
住宅デザイン部 大阪オフィス 広島駐在

女のふりをして 【 土佐日記 】 を書いた 『 紀貫之 』 さんは、後醍醐天皇の下命によって、最初の勅撰和歌集 【 古今和歌集 】 を撰進しました。

「 やまとうたは人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける 」

で、はじまる冒頭の仮名序では、ことばにならないものを、あえて 《 ことば 》 にすることが “ 美学 ” なんだよ。 と、言っています。

さらに、こう続きます。

「 ちはやぶる神代には、歌の文字も定まらず、
素直にして、言の心わきがたかりけらし。
人の世となりて、素戔嗚尊よりぞ三十文字あまり一字は詠みける 」

神々の時代には歌の字数も決まっていなかったし、素直な表現で、歌なのかどうかもわからなかったけれど、地上におりたスサノオが、はじめて三十一文字の和歌を詠んだのだよ。 とも、言っています。

紀貫之さん
スサノオさん
スサノオさんと
やっつけられる八岐大蛇さん

八岐大蛇を退治したスサノオさんは、出雲の国つ神の娘、クシイナダヒメと結婚します。そのとき空に湧きでた雲が、幾重もの垣をめぐらしたように見えました。
そしてこう思うのです。
「 私も妻を住まわせる宮殿に、幾重もの垣を作りめぐらそう 」

これは、新妻のクシイナダヒメを “ 守るぞ ” という、スサノオさんの決意表明です。
この気持ちを三十一文字の歌にして表現したのが、日本最古の和歌と伝わっている、スサノオノミコトの歌。

「 八雲立つ 出雲八重垣つまごみに 八重垣つくる その八重垣を 」

出雲大社広島分祠 神楽殿からの景色

みなさんこんにちは。
住宅デザイン部広島駐在の 『 山本ジュリー 』 です。

スサノオノミコトが詠んだこの歌は、日本で最初の五七五七七、三十一文字の和歌として伝えられてきました。
和歌のはじまりには、まず “ 神 ” の存在があって、やがて神は、人に和歌でお告げをするようになったのだ。 と信じられていて、歌人たちに長く重んじられてきました。

何かを守ることの大切さや、
物事の始まりや、
これからに対する決意の大事さなどを
“ 伝えるもの ”

山本ジュリー

として受け止められてきたのだと思います。

今回わたしは 【 出雲大社広島分祠 神楽殿 】 を担当しましたので、 “ 伝えるもの ” としてご紹介していきます。

出雲大社広島分祠

設計:
大旗連合建築設計株式会社
施工:
株式会社増岡組
撮影:
稲住写真工房

詳細はこちら

日本海側にある、日本でも有名な神社の一つが 【 出雲大社 】
一般的には 【 いづもたいしゃ 】 と呼んでいますが、正式名称は 【 いづもおおやしろ 】 です。

出雲大社の本社は島根県出雲市にあり、御祭神は大国主大神 ( おおくにぬしのおおかみ )。
《 日本書紀 》 や、日本最古の歴史書といわれる 《 古事記 》 に、その創建の由来の記述があるほど、歴史のある神社でもあります。
ちなみに大国主は、《 日本書紀 》 ではスサノオの息子で、《 古事記 》 ではスサノオの六世の孫となっています。
出雲大社は全国に、十三ヵ所の 『 分祠・分社 』 などがありますが、なんとびっくり!
海外のハワイとマレーシアにもあるそうです。

『 分祠 』 というのは、本社の出雲大社から分霊して、別の場所で祀られている神社のことで、広島にも、広島市内を一望できる、見晴らしのよい場所に分祠があります。

2021年に御鎮座 50周年を迎える事を記念して、本殿の横に 《 神楽殿 》 が計画され、照明計画をさせていただきました。
神楽や雅楽コンサートなど様々な祭事を通じて、信仰を広めることを目的としていて、上から見ると “ 六角形 ” になっています。

六角形の平面図にしたのは、

「 周囲の地形や動線、本殿への軸線に配慮し、二階の屋根を六角形の中心を頂点とした上り勾配の屋根とすることで、周囲への圧迫感を軽減し、信仰の対象である本殿に意識が向くように、計画した 」

からだそうです。

神楽殿の二階に 《 大広間 》 があり、内装材は “ 天然の桧 ”
ベースとなる明るさは、客席上部の傾斜天井をフラットに掘り上げて設置した、拡散光タイプのダウンライト。
ダウンライト本体は、素材の “ 桧と同系色 ” で別注塗装し、消灯時にも天井になじむようにしています。

光源の色温度は、電球色の赤みを帯びた [ 2700 K ] ではなく、少し白味を帯びた [ 3000 K ] を採用。
もともと木肌の色が赤味を帯びているため、電球色 [ 2700 K ] を選んでしまうと、その木肌の色と相まって ( 相乗効果によって )、イメージより赤い空間ができてしまいます。
そこで、少し白味を帯びた [ 3000 K ] にすることで、電球色で構成されたような、温かみのある空間をつくりだしました。

この大広間では祭事だけでなく、雅楽コンサートなどのイベントも行われます。
ピアノステージには、周りの色温度よりさらに、白くて高い色温度 [ 4000 K ] の光をあてることで 「 ピックアップ 」 効果を高めています。

別の物件ですが、下のピアノラウンジの写真を見比べてみてください。

  • 全体 : 2700 K
  • テーブル : 2300 K  ピアノ : 4000 K

ピアノステージを白い光にすることで、電球色のような暖かみのある空間のなかから、 “ 拾い上げる ” ような効果がうまれています。 これが 「 ピックアップ 」 pick up です。

客席をぐるりと囲む広縁部分は、グレアレスのユニバーサルダウンライト。
集光タイプの光でメリハリを付けながら、点灯感を抑え、大広間から見える景色に配慮しています。

夕日を背にコンサートをすることもあるそうで、グレアレスなら邪魔にはなりません。

夕べに望む広島市内の夕日

大広間の正面にある 《 神殿 》
建物の名称にもある通り 『 神楽 』 などの祭事が行われます。

神殿用の光は、配光角度の異なるスポットライトを“ 客席から見えない梁の裏 ” に設置。

広角タイプで地明かりを確保し、
中角タイプで展示物や人物などへ照射。

二種類の光を織り交ぜた 『 混光照明 』 としています。

『 信仰心を高める 』

平安時代の 《 古代出雲大社 》 は、高さが 48メートルもあったと言い伝えられています。
外部から直接二階につながる階段は、まるで古代出雲大社のよう。

宮司さんが 「 悩みなどの相談に応じる日 」 は多くの方が訪れ、早朝から並ぶ方もいらっしゃる。
冬の早朝はまだ暗いので、足元の明るさを確保したい。
そこで、昼間は建築になじみ、暗くなると光の道が顕現するような 『 神様へ続く祈りの道 』 をイメージし、中央部のみの間接照明で表現しました。

2階の外部通路も、天井に器具は付けずにフットライトで足元を明るくしています。
< ZEROシリーズ > のステンカラーがコンクリートの柱になじんでいます。

広島分祠では、この神楽殿が完成したことをうけ、本殿とは別に神楽殿の御朱印ができたそうです。
御朱印集めをしている方がいらっしゃいましたら、ぜひ出雲大社広島分祠も訪れてみてください!

出雲大社のシンボルとも言える 《 大注連縄 》

《 神楽 》 とは 【 神に奉納する歌や踊り 】 のことで、古事記や日本書紀に登場する “ 神々の物語 ” がベースになっています。
出雲大社のある島根県では 『 石見神楽 』 が有名です。

中国地方には 500以上の神楽上演団体があり、全国でもトップクラス! 広島にも 『 広島神楽 』 があり、毎週定期公演をしている所があるのですが、師匠の 「 タカキヒデトシ54 」 が広島にやってくると、決まって、

すべて国民は、健康で “ 文化的な ” 最低限度の生活を営む権利を有する。

この日本国憲法第 25条、第 1項の一文を、早口言葉のように必ず 3回、しかも “ 文化的な ” の部分をめちゃくちゃ強調して唱えます。
私たちは神からのお告げのように、その言葉を浴びせられ、そして、一緒に神楽を見に行くことになってしまうのです。

見たことが無い方は、ぜひ見にきてください。
間近で見るとものすごい迫力です!

あ・・・。
師匠の早口言葉ではありませんよ、神楽ですからね。
ここだけは、強調して “ 伝えて ” おかないと・・・。