Pro's way

住宅照明のヒミツ

04

2017.02

住宅照明のプロフェッショナル

タカキ ヒデトシ49

Interview

照明デザイナーは、『魔法使いサリーちゃん』たれ。

日本中を飛び回って、
住空間に“夢と笑い”をふりまき、
“愛と希望”を具現化するのが、
僕たち照明デザイナーの使命だ。

Hidetoshi Takaki

“高木チーム”は、どんな仕事を担当されているのですか?

僕は大光電機のTACTという照明デザイナー集団の所属なんですが、元々は住宅専門ではなく、店舗や施設も担当していました。阪神大震災後の1997年頃に、懇意にしていただいていたハウスメーカーの建築家の先生から、「これからは照明に注力する時代だ。スタッフに照明デザインのノウハウを教えてもらえないか」とお声がけいただき、住宅の照明計画についてのセミナーをするようになったのです。

それをきっかけに、全国でセミナーをすると共に、特にこだわりのある物件について、照明計画をご依頼いただくようになりました。住宅専門のデザイナーは、最初は僕1人だったのですが、一番弟子の家元あきが住宅をやりたいと志願してきて、僕の不在時にもプランを担当してくれるようになりました。一番忙しい時には、年に100回以上のセミナーをしていたんですよ。それで、もっと多くの方へ、僕のノウハウを伝えたいと思い、『高木英敏の美しい住まいのあかり』という本を日経BP社から出版したのが2008年のことです。次に花井が僕のチームに参加し、東京でも住宅専門のチームを、とメンバーが集まって、今は大阪と東京で12名のチームになりました。家元は実績を積み上げて名実ともに“間接照明の女王”ですし、花井のセミナーも人気がある。昨年は女性3人組の“吹抜けキャンディーズ”がメジャーデビューして、みんな積極的にセミナーを開催しながら、照明プランもこなす毎日です。高木チームは全国を飛び回って、よりよい住空間づくりのための魔法をかけて回っているんです。まるで魔法使いサリーちゃんみたいでしょ。(笑)

住宅の照明デザイナーの仕事について教えてください。

昭和から平成になって、住宅の建築が、大きく変化しているのは気づいていますか? ひと昔前の家、昭和40年50年頃までの一般的な家は、6畳の居間、8畳の応接間、4畳半の台所と、正方形か長方形の決まった形の部屋で区切られていました。地方の在来工法の家などは今もこのような間取りになっていますよね。こんな間取りの場合の照明は、部屋の真ん中に1つ器具をつければ、それで十分必要な明るさがとれていました。

シーリングとかペンダントとか、1部屋に1つ器具を付けるのが昔は普通だったんですよ。特別なプランなしで、工事をする人が照明をつけることができました。それが、昭和後期から平成になって、居間と応接間と台所はLDKという1つの空間に合体したんです。大きな四角の空間の場合もあるけれど、ジグザグずれた間取りの場合もありますね。そのLDKに、近年では2階への階段がついたり、吹抜け空間があったり、家事コーナーなどがくっついて、広くて複雑な空間ができ上がっていったのです。こうなってしまうと、それぞれの空間の中心に照明をつけ、さらに部屋の四隅にダウンライトをつけたりすると、連続空間の照明計画がトンデモナイことになってしまう。実際そういう残念な物件をたくさん見てきました。

例えば下の左の写真ですが、最近のキッチンは吊り戸棚がないフルオープンが人気ですね。空間が広くすっきり見えると思いきや、食器棚の前の照明器具や、シンク上のスポットライトやダウンライトが丸見えで、なんとも賑やかなことになってしまっています。吊戸(垂れ壁)のある家の方がキッチンの照明が見えないから整理されてスッキリして見える。

実はこの空間、横にリビングが連続していて、リビング側から見ると、大きなシーリングや四隅にダウンライトがついて、目も当てられない状態に。しかも、リビングとキッチンの照明は白い蛍光灯、ダイニングと部屋の四隅のダウンは黄色い電球と、1つの連続した天井の中に、実に6種類の照明器具と2種類の光色が入り混じってしまっています。さらに、天井埋込エアコンまで。本当に残念なことになってしまった良い(?)例です。

これはほんの一例ですが、平面図だけで配灯すると、こういうことになってしまうんです。立面図も読み込み、生活シーンを想像して仕上がりをイメージできるかどうか。これが、照明計画が難しいと言われる所です。設計士さん、インテリアコーディネーターさん、そして照明デザイナー、携わる方すべての意識が変わらないと、いつまでも残念な家を作ることになってしまいます。

下の写真は昨年、僕が担当させていただいた物件で、「1階」「2階」と別々に考えるのではなく、「二層吹抜け空間」として考えた照明計画です。「ファン」「ダウンライト」「スポットライト」の取り合いが揃うように配置しました。

この物件の詳細はこちらでご覧いただけます。

このように、必要なあかりを配灯するのはもちろんですが、美しい、キレイな空間づくりが僕たちの照明デザインの到達点だと思います。僕はチームのみんなに、夜の現場を見るように常々言っているんです。そこが、図面だけで配灯計画をするのとの一番の違い。照明が照明として成立しているシーンを自分の目で見て学ぶ。この継続が力になっているのだと思います。

今後の目標を教えてください。

照明計画は建築の付加価値です。限られた予算の中で、その価値を認めていただかないといけない。どうやって認めていただくか? それは、キレイな家をたくさん作っていくしかないんです。照明は重要なんだということを知っていただくには、信念をもって実邸を作っていくことです。チーズのQBBは知っていますか?「QBB」=「Quality's Best & Beautiful 」の略ですが、これにスピードをプラスして、「QBBS」がキーワードです。品質は最高で美しい、しかも仕事が速い。高木チームはこれで突き進み日本一の住宅チームを目指します。

とはいえ、高木チームだけで日本のすべての住宅照明を良くすることはできない。だから、全国の設計士さん、インテリアコーディネーターさんにセミナーに来ていただいたり、本やカタログを見ていただいて、真似してほしいんです。そのために、高木チームのメンバーが全国の住宅メーカーさんや工務店さんに、住宅照明の考え方を広く発信していかないといけないんです。高木チーム全員がサリーちゃんになるのが、僕たちの使命です。(笑)