03
2016.10
演出照明のファンタジスタ
今泉卓也
Interview
- Takuya Imaizumi
今泉さんが考える“非日常空間”の照明というのは、
どのようなものですか?
“非日常”というのは、あくまで感覚の問題なので、一言で言うのは難しいのですが、私が思い描くのは、足を踏み入れた瞬間にハッ!とする空間です。「琴線に触れる」という言葉がぴったりかもしれませんが、そこに暮らす人にとっては癒しかもしれませんし、訪れる方にとっては忘れられない印象深い空間になるかもしれない。単にゴージャスとか安らぎとか言うのではなくて、お施主様や設計士さんの狙いや希望を超える空間のことだと思います。
そんな非日常空間では、照明がとても大きな役割を担います。建築に寄り添いながらも、こうなるであろうというイメージを超えていく空間を創りだすのです。
具体的に説明すると、まず昼間の照明がついていない時と夜の照明をつけた時で、空間のイメージはガラリと変わります。実はそこに、私の着眼するポイントがあります。夜になって照明をつけると、照明の光がどこから出ているのかわからない、さり気なく溢れ出ている…。照明器具を意識させることなく空間を光で満たすとき、非日常が生まれるのです。
この手法では、照明器具はなるべく表に出さないようにします。間接照明を駆使し、特に、ダウンライトを目立たせないように工夫しています。
また、日常では空から地面へ、天井から床面に向けて光は降り注ぎますが、足元だけを照らしたり造作を浮き上がらせたりと、自然光ではできないところから光を出すのも、照明ならではの非日常の演出と言えます。
しかし最も気をつけなければいけないのは、それが住宅であるということ。ホテルやBarなら、数日や数時間という限られた瞬間だけですが、住宅は毎日ずっと過ごす場所です。日常の暮らしに必要な機能的な照明プランがベースになっていないといけないし、やり過ぎて違和感があったり疲れたりする照明はNGです。
手がけた事例をご紹介ください。
こちらは、2015年から2016年にかけて担当させていただいた別荘です。コーディネーターさんと密に相談しながら、1年半かけてプランを具現化しました。別荘という特別な空間ですので、1部屋1部屋、用途やシーンを想定して、非日常を演出させていただきました。部屋によってはシーンごとに照明の組み合わせや調光が違うため、シーンコントローラーを入れて、ワンタッチで目的にあった照明ができるようにしています。
シャンデリアを中心にプランした
玄関の吹抜け空間。
空間の広がり感、重厚感を大切にした
ダイニングルームの照明プラン。
和室には、お施主様の家紋を入れた特注器具を製作しました。主にお客様との食事の場として利用されるとのことでしたが、会議にも使いたいというご要望でしたので、特注器具にダウンライトを仕込んで、机上面の照度をとりました。障子裏には、下から上向きの間接照明を入れて、空間にアクセントを与えています。
大光電機の強みでもある特注器具製作。家紋を入れた京からかみを用いて設えた。
もう1軒、こちらは傾斜天井やアール天井、壁には樹木のオブジェと、設計士さんのこだわりが詰まったお宅です。こういった建築は照明を考え抜くことで、意匠の完成度を上げることができます。それは、住宅の潜在能力を引き出すことにもつながります。お施主様には低学年のお子様がいらっしゃるのですが、このようなお宅なら、情緒豊かな子供さんが育つのではないでしょうか。
樹木のオブジェの演出には、
店舗用の器具を使用した。
2階ベランダ。1階から2階にまたぐ植樹を
下からの照明で美しく演出。
そもそも、今泉さんが非日常空間の照明プランを
やるようになったきっかけは?
私は美大の出身でグラフィックが専門だったため、入社当時はTACTでは珍しく、こんな照明をやりたいというこだわりがなかったんです。それで、ひょんなことからアミューズメント系の照明プランを担当するようになって、そこで様々な演出照明を手掛けていたのが、私の照明デザイナーとしてのキャリアのベースになっています。
かれこれ8年ほど前、まだアミューズメントの照明プランをしていた時の話なんですが、弊社が、とある著名な方のお宅の照明デザインを担当することになって、その方から「もっと演出効果の高い照明を取り入れたい」というご希望があって、社内で私が適任ということになったんですね。フルカラーのLEDを使ったり、アミューズメント施設向けの照明を取り入れたりと、一般の住宅では奇抜な演出になってしまいますが、その住宅が非常に凝っていたのでうまくマッチしました。そして、お施主様にとても喜んでいただいて、記念に、一緒に写真をとっていただいたのも良い想い出になっています。
そんな経験もあってか、ある時、住宅チームにコンバートされて、今は東京の住宅チームを任されるまでになりました。そもそもアミューズメントのプランをしていたので、住宅でも非日常の演出を得意とするのは、ある意味、必然だったのかもしれません。
ただですね、私が手掛けるのは非日常空間ばかりではなく、オーソドックスな空間も、もちろん得意なんですよ(笑)。
ご自宅に、非日常空間を作りたいと思った方は、
どうすればいいでしょう?
私が手掛ける“非日常空間”は、お施主様・設計・照明が三位一体で作り上げるものです。“非日常空間”という言葉で一括りにしていますが、それが“癒し”なのか“驚き”なのかなどのイメージも明確にし、目的、好みまで、しっかり共有して進めないと実現は難しい。なので、お施主様はご希望をできるだけ早い段階で、設計士さんやインテリアコーディネーターさんに伝えられることが重要です。設計士さんやICさんも、具体的な造作が決定する前に、照明デザイナーにプランをご相談ください。
DAIKOの大阪のショールーム“ライティングコア大阪”には、外構照明のシミュレーション部屋がありますので、大阪近郊の方は、お施主様とごいっしょにぜひお越しいただいて、実際の見え方を体感してみてください。もちろん僕に時間があれば、アテンドさせていただきます。
美しい庭の夜景を室内から眺める、そんな少しだけ贅沢な住まいのあかりを実現する、“室内も含めた総合的な視点”での照明計画をご提案させていただきます。住まいの「内」と「外」をつなぐライティングで、付加価値の高い住空間を一緒に作りましょう。
これまで“非日常空間”を意識されたことがなかった方も、せっかく家を新築されたりリノベーションされるなら、ご自分が心地よく感じる部屋、訪れた方にすごいな!と言っていただけるような空間づくりを目指してみられたらどうでしょう。それはご家族みなさんにとっても、素晴らしい家になると思います。