■審査委員:講評
黒木正郎 (建築家)

八月の第一次審査132点の全応募作品を一覧して感じたのは、ペンダント、という空中で自由に形を主張できる課題に対してその形態のデザインを問おうとする作品が少なかったことです。
応募案の過半は光を発する素材、今まさに実用化の途上にある線状ないしは面状発光体が作り出す空間の現象をデザインしようとする試みでした。
白熱電球という高輝度かつ発熱するデバイスを、それを覆う形態によって光をデザインしようとする試み、ルイス・ポールセンの金属球面の組み合わせやイサムノグチの和紙など、これらはあらたな発光体の開発によって別の方向の努力に置き換わっていくのでしょう。
最終選考に残った7点はそれら努力の方向のそれぞれの代表といえるものです。
青木さんのあかりの折り紙や合屋さんのシェードなしのペンダントは形と光の関係を新しい光源を使って見せてくれたものでした。落合さんのカーテン状の作品と武井さんの揺れる細長い線状光源は、ぜひとも現物を作って空間の中で体験してみたいと思わせるものです。
竹内さんの風呂四季ペンダントは審査の席に模型がなかったのが惜しまれますが、帰って早速試したところこちらが意図する柔らかさの光を簡単に作り出せることがわかりました。熱を発しないLEDの光源が一般化したからこそ可能になったデザインで、すぐにでも実用化できそうに思います。
李さん陳さんのURBAN PENDANTは屋外空間用のペンダント照明という意表を突いた回答でした。かつてのペンダントライトが家族の特別な時空間を演出するためにデザインされたものであったとしたら、その時にデザイナーたちが目指した温もりの感覚を街に広めたいという意図は、ペンダント照明というものだけが可能な仕事をさせようとするデザインであり深く説得されるものでした。
権藤さんのくらやみ灯はぜひとも実現してほしいものです。審査の席でも申しましたが、わたくしは類似の体験をしたことがありまして、それは1999年8月にパリの郊外で体験した皆既日食です。天空が壮大な闇に覆われ外周が360度明るい昼間であるという空間は、その状態でなければ発現されない感情をもたらします。
私にとってそれは深く自分の内側に入っていく感覚でした。
人にある種の感情を作り出させることができるという「あかり」の持つ根源的な働きを、これまでに見たことのない形で体現してくれるように思うからです。